vol.2 映画監督 ダミアン・マニヴェルさん(前編)

「映画人の話を聞こう。」
映画チア部のメンバーが、映画業界で働く大人にインタビュー。
仕事内容だけでなく、仕事に対する想いやこれまでの道のりなど、
その人自身について深く掘り下げてお話を伺います。


vol.2は映画監督のダミアン・マニヴェルさん。現在35歳で、4作目の短編『日曜日の朝』(2012)がカンヌ国際映画祭で批評家週間短編大賞を、長編第1作『若き詩人』(2014)がロカルノ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど、今注目の若手フランス人監督です。今回は、『若き詩人』の元町映画館での公開初日イベントのために来館されたマニヴェル監督に、英語でインタビューを敢行しました。


前編では主に、映画監督という仕事について、そして現在に至るまでのご自身のバックグラウンドについてのお話をお届けします。

ダミアン・マニヴェル監督

映画作りは、大きな冒険をたくさんの人と共有すること

——どのようにして映画監督になったのですか?

21歳とか22歳の頃、サーカス・アーティスト、後にダンサーとして働いていたのですが、映画を作ることに興味を持ち始めて、様々な映画を観るようになりました。子供の頃は娯楽映画、アメリカ映画もたくさん観ていて、大好きでしたが、フランスの古い映画や詩的な映画など、より変わった映画を観始めたんです。そして、映画を作るのには別の方法があるということ、映画はアメリカ映画だけではないのだということに気づきました。それが衝撃的で、私は毎週末に友人たちと映画を撮るようになり、出来の悪い作品もたくさん作りましたが、それに夢中でとても真剣でした。

その数年後、私は本当に映画監督になりたいと思うようになっていて、「ル・フレノワ国立現代アートスタジオ」という映画学校のようなところに入学しました。そこで短編映画などを作って、映画祭に行くようになりました。そこから少しずつ、映画作りが私の仕事になっていったのです。


——俳優になりたいとは思わなかったのですか?

いえ、思いませんでした。


——なぜですか?

少し演劇もやっていましたが、自分に合わないと思いました。私は作ることが楽しいのです。絵を描いたり、何かを作ったり……とても具体的なことです。何かを「作る」ので、私はこの仕事が好きです。この感覚というのは、演じることとは全く違っています。映画作りにおいては、自分の作るものを自分で決めることができます。自分は独立していて、自身と向き合うことになります。でも俳優の場合は、誰かの要求を待たなければなりません。私は「作る」ことが本当に楽しいんです。


——ダンサーと俳優は少し近いのではないかと思ったのですが、どうなのでしょうか?

演技にもたくさんの方法があります。演劇と映画でも違うし、特に映画においては、様々な技術を用いて自然に見せる方法や、自然でない方法も含めて、非常に多くのタイプがあります。例えば、ロベール・ブレッソン*の演技の方法は、ある意味ではダンスのようだと思います。一方でスタニスラフスキー*のアメリカ的なメソッドでは、キャラクターにものすごく入り込むことが重視されます。これはダンスとは正反対で、非常に精神的な方法です。それぞれ多くの素晴らしい俳優がいますが、ダンスと演技は全く違うものだと思います。

でも、個人的意見ですが、ダンスを見た時に生じる感情と、映画を観た時に生じる感情が似ているということもあります。それは情動によるもので、私はその感覚がとても好きですが、正確に説明できないですね……それ自体はっきりしたものではないので。


——映画監督という仕事の魅力を教えてください。

良い面?悪い面はいろいろ言えますね(笑)。


——悪い面についても後で伺おうと思います(笑)。

わかりました(笑)。まず魅力のひとつは、映画作りが「何かを構築すること」だということです。とても具体的なもの、例えば映画以外にも、音楽を作ることや建築などにも共通していると思います。

別の良い面は、一風変わっています。「映画作りはとても孤独な仕事であると同時に、1人ではできないこと」だということです。映画は必ず、他の誰かと作ることになります。私は、映画作りのパーソナルな部分も好きですが、映画作りは同時に大きな冒険をたくさんの人々と共有することでもあります。他人と一緒に働き、彼らがアドバイスをくれ、助けてくれます。

例えば撮影の時には、スタッフは皆強い思いを持っているので、非常に疲弊します。彼らは本当にいい映画が作りたい。『若き詩人』主演のレミ・タファネルも必死で詩を書いたりしていましたし、時々私たちはみんな異常だなと感じることもあります。全員でひとつの映画を作ろうと努力していますが、もはや仕事という感じでもなく、非現実的な作業です。

でも、私はそれが素晴らしくて、ユートピア的だと思います。映画の撮影の時間は、一種のユートピアです。共に映画を作る人たちだけで、別の国で、別の町で、毎日創作をして、また別の人と会って、何かを創って……現実的なことではない、全く違う何かなのです。それがすごく好きです。


——では悪い面はどんなことなのでしょうか?

本当にたくさんあります(笑)。でも難しいですね……例えば、ある日には非常にうまくいったことがあって、とても幸せな気持ちになる。でも次の日には、うまくいかない。パソコンで編集をしている時に、「良いものができた」と思っても、それを実際に映して見たら、全然良いと思えない。逆に、良くないと思っていたものが、実は良かったりする。これが映画作りです。とても複雑で、混乱させられます。

クリアなアイデアが全く浮かばない、脚本に良いシーンが書けない、撮影がうまくいかない……何一つ確かなことはありません。映画は人生のようであり、猫か何かの野生動物のようでもあります。捕まえようとしても、捕まえられない時もある。そして本当に人生の過程のようで、全く、まっすぐな道のりではありません。

それから、お金の問題も複雑ですね。制作費を集めるのも、映画作りをする上でとても大変なことです。


——それでも、これからも映画監督として働き続けようと思いますか?

はい。

自分の仕事を好きになることが大切。

——マニヴェル監督の学生時代について教えて下さい。大学には行かれていたのでしょうか?

高校を卒業した後、フランスの南の方の、サーカス・スクール、アクロバティックの学校に19歳から20歳まで行っていました。大学ではないですね。その後、ダンス・カンパニーで働き始めました。だから私は、それ以上は勉強していないのです。


——アクロバティックの学校というのは、どうでしたか?

フィジカルでしたね。フィジカルすぎました。頭を使わない。ロボットになったように感じたので、あまり好きではなかったです(笑)。


——10代や20代に、何か後悔はありますか?

例えば何について?


——どんなことでも大丈夫です。

もちろん、誰もがそうであるように、後悔はあります。でもこれについては言えないですね……(笑)


——わかりました(笑)。では10代や20代の頃、何か「有意義だった」と思える経験をしましたか?映画に関係することでも、そうでないことでも大丈夫です。

これも、誰もがそうであるようにたくさんの有意義な経験をしました。10代の時の感受性はとても強いので、恋愛もそうですし、初めて酔っぱらった時のことなども、とても有意義だったと思います。映画に関することで言えば、21、22歳の頃に映画に興味を持ち始めたのは、本当に良かったと思っています。


——マニヴェル監督は何度も日本に来られていますよね。日本のどこが好きですか?

たくさんあります。まず思いつくのは、日本語を学ぶのがとても好きで、楽しいですし、私にとってますます重要になってくることだと思っています。友達や家族も日本にいて、安心感もあります。日本で映画を撮りたいと思いますし、実際に来年日本で撮影を行う予定です。だから私の答えとしては、小さなことで、たくさん好きな部分があるということになります。フランスと全く違うことに関しては、その違いも好きですね。


——日本で好きな俳優や女優、監督はいますか?

古い映画をたくさん見ていて、最近は成瀬巳喜男の映画を見ています。とても好きですし、女優の高峰秀子さんも。昔の映画にもたくさん良い俳優がいますが、最近の俳優で言えば『珈琲時光』や『茶の味』で見た浅野忠信さんが好きです。彼の出ている作品全てにおいて好きというわけではないかもしれませんが、彼の演技のスタイルはナチュラルだと思います。


——彼と一緒に仕事をしたいですか?

もし彼から提案があったら、イエスと言うでしょうね(笑)。


——日本の学生に対して、仕事を選ぶ上でのアドバイスをいただけませんか?

難しい(笑)。でも……働くことを好きになる、ということは必要だと思います。私は今映画を作る仕事をしていて、自分の仕事に感謝の気持ちを持っていますが、この仕事をする前にはそれが難しかった。だから、自分の仕事を好きになることが大切だと思います。


——ありがとうございます。

*ロベール・ブレッソン(1901-1999):フランスの映画監督。芝居がかった演技を嫌い、抑制された独特の演技様式を用いた。

*コンスタンチン・スタニスラフスキー(1863-1938):ロシア・ソ連の俳優、演出家。「スタニスラフスキー・システム」と呼ばれる演技理論を提唱した。

後編では、『若き詩人』を中心に、監督の映画についてのインタビューをお届けします。

(まゆこ)


■PROFILE

映画監督 ダミアン・マニヴェル(Damien Manivel)さん

コンテンポラリー・ダンサーとして活躍後、ル・フレノワ国立現代アートスタジオにて映画を学ぶ。2010年発表の3作目の短編『犬を連れた女』(2010)がジャン・ヴィゴ賞(フランスの映画監督にちなんだ賞で、若手監督に授与される)を、4作目となる『日曜日の朝』(2012)がカンヌ国際映画祭の批評家週間短編大賞を受賞し反響を呼んだ。初長編映画となる『若き詩人』(2014)はロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞。

□『若き詩人


映画チア部

神戸・元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための映画宣伝隊。