兵庫県 神戸・元町映画館で『パレスチナ映画週間』が開催 - 上映作品を通じてパレスチナの現状を知る

『パレスチナ映画週間』のフライヤーメイン・ビジュアルより

上映企画『パレスチナ映画週間』が、6月24日(土)〜 6月30日(金)まで神戸・元町映画館で行われる。 同企画では、占領下にあるパレスチナの様子を伝える劇映画やドキュメンタリー作品を中心に、パレスチナ映画8本が特集上映をされる。1967年6月からイスラエルがパレスチナのヨルダン川西岸地区とガザ地区を軍事占領し、今年で50年になる。今回は、『パレスチナ映画週間』の企画監修を務められた、京都大学大学院 人間・環境学研究科教授の岡真理さんに同企画の思いを伺った。


今、ニュースで伝えられないパレスチナ・ガザ地区 を含めた地域で何が起きているのか。
またパレスチナ地域の現状やパレスチナ問題とは何かをどのように知ってもらうか。


- 『パレスチナ映画週間』を企画された経緯をお願いします。

岡さん:昨年の9月に神戸・元町映画館で『シリア・モナムール 』という今のシリアの内戦を描いたドキュメンタリー映画が上映されました。

上映後にアフタートークイベントが行われ、私も登壇しました。トークイベントを企画された、元町映画館を支援しておられる方がトークのあと、「2017年はイスラエルがパレスチナを占領して50年を迎えます。元町映画館でパレスチナの映画を特集上映しませんか?」と提案され、それを元町映画館にお伝えしたところ、快諾していただきました。

また、同企画の上映作品を通じて、今、この地球上で起きている、パレスチナの「占領」という問題をきちんと知ってもらいたいと願っています。なぜなら、この地球社会を創るのは地球市民である私たち一人ひとり。問題をどのように解決できるかを私たち自身が考えることが大切です。


映像を通じてパレスチナの現状を知る。選び抜いた上映作品を解説


『パレスチナ映画週間』のフライヤーメイン・ビジュアル 裏より


- 上映作品はどのように選定されたのですか?


岡さん:西岸・ガザの占領から50年目ということを契機にしている特集ですが、単に1967年の占領についてだけでなく、この機会に、パレスチナ問題全般について広く深く知っていただくラインナップにしようと決めました。上映する8本を満遍なく観ると、今年で50年目を迎える占領のもとに生きる人たちだけでなく、1948年の占領によって引き起こされたパレスチナ人の苦悩が映像を通じて見えてきます。

A :『パラダイス・ナウ』のワンシーンより
2005年 / フランス・ドイツ・オランダ・パレスチナ / 90分 / 監督:ハニ・アブ・アサド /
配給:アップリング 
※ 35mmフィルム上映


パレスチナの幼馴染みの二人の若者が自爆攻撃に向かう48時間の葛藤と友情を描いた作品。


岡さん:『パラダイス・ナウ』は、物語が永遠に宙吊り状態で終わっている。主人公サイードがバスの車内で自爆スイッチを押すのか押さないのか。本来なら、物語上で爆発音や遺体、砕けたバスの破片など、そういった表現が映像で含まれているはずだが、この作品ではそういったシーンは描かれていない。それは、「あるべき物語の終着地をみなさんで考えて欲しい」という意味も込められている。

B『オマールの壁』のワンシーンより
2013年 / パレスチナ / 97分 / 監督:ハニ・アブ・アサド / 配給:アップリング


占領下に閉じ込められ、厳しい状況に直面した愛が描かれている。


思慮深く真面目なパン職人のオマールは、監視塔からの銃弾を避けながら分離壁をよじのぼっては、壁の向こう側に住む恋人ナディアのもとに通っていた。長く占領状態が続くパレスチナでは、人権も自由もない。オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられてしまう。イスラエルの秘密警察より拷問を受け、一生囚われの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られる…。(『オマールの壁』公式ホームページより

C『我々のものではない世界』のワンシーンより
2012年 / パレスチナ・アラブ首長国連邦・イギリス / 93分/ 監督:マハディ・フレフェル


岡さん:『我々のものではない世界』では、70年前にイスラエルに祖国を占領され、民族浄化されて難民となってしまったパレスチナ人の現在が描き出されている。2013年の山形国際ドキュメンタリー映画祭にてインターナショナル・コンペティション部門で大賞を獲得。映画館でないと滅多に観られない貴重な作品だ。

D『壊された5つのカメラ』のワンシーンより © Emad Burnat
2011年 / パレスチナ・イスラエル・フランス・オランダ / 90分 / 監督:イマード・ブルナート ガイ・ダヒティ /配給:浦安ドキュメンタリーオフィス


主人公 イマード・ブルナートは5台の壊れたカメラを並べている。それぞれのカメラが彼の人生を表し、彼の物語を語ってくれる。「一度傷つくとその傷が治った後でも忘れない。しかし何度も傷つくと古い傷のことを忘れてしまう。カメラはそれを忘れない。だから私は傷を癒すために撮り続ける。 (『壊された5つのカメラ』の公式ホームページより


E『自由と壁とヒップホップ』のワンシーン © 2008 Fresh Booza Productions, LLc.
2008年 / パレスチナ・アメリカ合衆国 / 86分 / 監督: ジャッキー・リーム・サッローム /
配給:シグロ


岡さん:『自由と壁とヒップホップ』には、パレスチナ問題の根元にまで遡って、1948年の最初の占領によって祖国を奪われ、「ユダヤ国家」で三級市民、あるいは潜在的テロリストとして生きることを余儀なくされているパレスチナ人が描かれている。


F『Women in Struggle - 目線 - 』のワンシーンより
2004年 / パレスチナ / 56分 / 監督:ブサイナ・ホーリー

占領に抗したためにイスラエルの刑務所に投獄された経験をもつ4人の元政治犯のパレスチナ人女性たちの姿を描いたドキュメンタリー映画。

祖国解放のために武装闘争に参与した彼女たちは、イスラエルの牢獄のなかで何を失い、何を得たのか? 

監獄から解放された彼女たちは今、いかなる生を生きているのか?

深い痛みを内に秘めつつ、しかし、尊厳をもって生きる彼女たちの姿を通して、普遍的問いを私たちに提起する。(映画『Women in Struggle ─目線─』京都上映会記録集編集委員会のホームページより

G『ぼくたちは見た – ガザ・サムニ家の子どもたち- 』のワンシーンより
© Asia Press / Mizue Furui
2011年 / 日本/ 86分 / 監督:古谷みずえ / 配給:アジアプレス・インターナショナル

親を亡くし、家も学校も破壊された子どもたち。しかし、ガザにはストリートチルドレンは存在しない。親を失い、兄弟を失っても、兄弟姉妹、いとこ、おじさん、おばさん、おばあさんといった大家族が彼らを引き取り、新しい家族としての“絆”を深めてゆく。封鎖されたガザでは、物資も少なく、日々の食事の支度もままならない。それでも、家族で食卓を囲み、瓦礫のあとで遊びながら、子どもたちはたくましく生きていく。子供たちの証言から垣間見られるもの、それは“生きる力”“人間力”だ。なぜ国や人種、宗教が違うのに、子供の持つ“生きる力”は見る者の胸を打つのか。

「日本に住む同世代の子どもたちや、子を持つ親の世代に見てほしい」と切望する。きっと、同じ星に生まれた彼らの姿は、今の日本に住む私たちの心にも響き、これからの世界を変えるきっかけを作ってくれる。(『ぼくたちは見た – ガザ・サムニ家の子どもたち- 』公式ホームページより

H『沈黙を破る』のワンシーンより © 2009 DOI Toshikuni / SIGLO
2009年 / 日本 / 130分/ 監督:土井 敏邦 / 制作・配給:ジグロ 

岡さん:『沈黙を破る』では、イスラエルのユダヤ人もまた占領によって蝕まれていく様子が伺える。占領という法外な暴力の犠牲者はパレスチナ人だけではない。パレスチナ人に対して占領の暴力を振るうイスラエルのユダヤ人たちもまた、それによって彼らの人間性自体が蝕まれていくのであり、彼らも「占領」という暴力の犠牲者であると言える。


映画を通じて感じる人間模様、身近な人の「死」について


岡さん:この前、家でイラン映画を観ていたのですが、数日後に炭鉱事故で何十人も死亡した出来事がイランで発生しました。そのニュースを知り、今まで以上にショックを覚えました。
イラン映画を観て、イランの人々がとても身近な存在となり、この人たちの「死」も身近なものに感じたからです。
その地で懸命に生きる人々の姿や、人間としての葛藤、そして人間の尊厳を求めて闘う彼らの抵抗を見ることで、私たち自身が変わるのでないでしょうか。


- 最後に読者のみなさまへメッセージをお願いします。


岡さん:これからの時代の担い手である若い人たちが今後の社会、この世界の未来を創り出していきます。

今回の上映作品には、「占領」という法外な暴力のありようと、その占領のもとで、人々の人権が奪われている様子が描き出されています。この問題は「他人事」だと思っていませんか?
「占領」は不法な暴力です。地球上のあるところで「占領」という法外な暴力が許されていることは必ず、地球上の社会そして私たちの生きる社会を蝕む行為になります。その問題を解決するということは、社会で生きる私たちの義務です。
是非『パレスチナ映画週間』に足を運んでいただき、私たちが生きているこの世界の現実について知り、考えていきましょう。(シバハラ)


今回の特集上映に合わせパレスチナ・ガザ地区のことをより理解していただくため、岡 真理さんによるアフタートークも開催される。

2017年6月25日(日)
1『Women in Struggle-目線-』14:50 回上映終了後
2『壊された 5 つのカメラ』17:10 回上映終了後

2017年6月28日(水)
3『パラダイス・ナウ』14:50 回上映終了後
4『Women in Struggle-目線-』17:40 回上映終了後


【イベント情報】

 

『パレスチナ映画週間』

2017年6月24日(土)~ 6月30日(金)
会場:兵庫県 神戸 元町映画館 http://www.motoei.com

上映作品:
『パラダイス・ナウ』(監督:ハニ・アブ・アサド)
『オマールの壁』(監督:ハニ・アブ・アサド)
『我々のものではない世界』(監督:マハディ・フレフェル)
『壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び』(監督:イマード・ブルナート、ガイ・ダビディ)
『自由と壁とヒップホップ』(監督:ジャッキー・サルラム)
『Women in Struggle―目線―』(監督:ブサイナ・ホーリー)
『ぼくたちは見た ガザ・サムニ家の子どもたち』(監督:古居みずえ)
『沈黙を破る』(監督:土井敏邦)

チケット料金:一般 1500円 / シニア 1100円 / 学生 1000円 / 3回券 3600円


プロフィール

岡 真理 (京都大学大学院人間・環境学研究科教授)

京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は現代アラブ文学。学生時代にパレスチナと出会い、以来、現代世界の思想的課題としてパレスチナ問題を考究している。著書に 『アラブ祈りとしての文学』(みすず書房、2008年)、『棗椰子の木陰で』(青土社、2006 年)ほか。訳書にターハル・ベンジェッルーン『日によって』(以文社、2012 年)など。 2009 年より、平和を目指す朗読集団「国境なき朗読者たち」を主宰、各地で、ガザ朗読劇 の上演活動を続ける。

映画チア部

神戸・元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための映画宣伝隊。