「逃げ恥」ならぬ「さよ出来」?映画『さよならも出来ない』監督・キャストへインタビュー

6/24(土)から立誠シネマでの上映がスタートしており、連日大入りの映画『さよならも出来ない』。

ふたりの男女(香里と環)が別れてから3年もの間、部屋に境界線を引きお互いに干渉しないように同居し続けているという不思議な状況と、その周囲の人々のざわめきが丁寧に描かれている。

監督である松野泉さん、キャストの野里佳忍さん(香里役)、土手理恵子さん(環役)、上野伸弥さん(浩役)にインタビューさせていただきました。今回はその後編です。インタビューの後半では、みなさんが「さよならも出来ない」ものや人について語っていただきました。

右から松野監督、上野さん、土手さん、野里さん、映画チア部


現実を切り取る中で生まれるもの


──映画の中の生活音(マンションの2階の足音が聞こえる等)にも、こだわりを感じました。

(監督)いくつかの映画に録音技師として携わっているからというのもあると思います。ただ、マンションの上の階のドタドタ音は、実際に子どもが走り回っている音そのままなんです(笑)。

京都のやんちゃな地域で撮影をしていて、上の階は割と放任主義なのか、子どもが丸一日ずっとドタバタしている感じで、正直うるさい状況でした(笑)。

それでも、僕が映画を撮るときのスタンスとして、大林宣彦監督がおっしゃっていたことで印象に残っていることがあるんですけれども。例えば、「晴れの日の撮影を想定していて、雨が降ってしまった場合、普通は中止します。でも、それが逆にラッキーだと思って撮影を行う。どんな状況でも出来る最大限のことをして、生まれるのが映画だ。」こんな風におっしゃっている記事を読んだことがあります。

僕も、自分で考えても生まれないようなことは、割と現実を切り取る中で出てくるものがあると思っていて、むしろ突拍子もないことが起こると、ラッキーだと考えています。そんなところから、新たな発想が生まれることもあります。

さっきの子どもの足音がどんどん大きくなっていって、太鼓の音のようになって盛り上がっていくというアイデアも生まれたのですが、これは違うなと思って(笑)、遊びで終わりましたが。実は音も後から足している部分もあるのですが、全体的にリアルなものになっていると思います。


今までやってきたことが繋がった瞬間


──土手さん演じる環(たまき)の、公園の砂場のシーンが印象に残っています。砂山が崩れ、(模型の)手が出てくる場面は、「本当は香里に触れたい」という思いが表れているのでしょうか?

(土手さん)確かにそれもあると思います。ただ、自分に重ねているところもあるかなって思います。この質問、めっちゃ難しいですね(笑)。

もちろん、「香里の手」という意識もあって、なおかつ、助けてほしいと思っている「自分の手」という意識もありました。結構、あのシーンは救いがないなと思います。猛烈に寂しい気持ちになりました。

──また、環が塗りたてのペンキに手を付けてしまうシーンで、一気に感情が爆発していましたね。

(監督)あのシーンは、一番しんどそうでした。

(土手さん)しんどかったです。確か初日でしたよね?

(監督)初日でしたね。今までは、人と向き合うコミュニケーションのお芝居をずっとやってきましたが、あのシーンはただの物体と向き合って、そこで感情を表すので誰も助けてくれない状況でした。

僕自身も今でも思うところがあって、別にあそこまで感情的になるのかどうか、正解はないわけじゃないですか。別にはっと気づいて終わりでもよかったのですが、わーっと感情が露になる部分も生活の中で見られないと、OKできないという部分もありました。

(土手さん)本当に誰も助けてくれないから、自分の中で「これにはこういう意味があって…」という感じで、余計なことを考えてしまいました。

でも、最後にOKになった時は、撮影前に松野さんから「考えることは今までやってきたから、「触る」「見る」「気付く」といった所に意識を持って」「動きなどの決まっていることだけは考えて、その他は何も考えずにやってみたら?」と言ってくださったのを覚えています。そこで初めて、今までやってきたことが繋がった気がしました。やっぱり「触る」「見る」「気付く」というだけで、自分の中で何も考えていなくても、気持ちは動くんだなと思えたシーンでした。

(土手さん)話がまとめられない、助けて(笑)。

──全然そんなことないです(笑)、ありがとうございます!

(土手さん)確かにそれもあると思います。ただ、自分に重ねているところもあるかなって思います。この質問、めっちゃ難しいですね(笑)。

もちろん、「香里の手」という意識もあって、なおかつ、助けてほしいと思っている「自分の手」という意識もありました。結構、あのシーンは救いがないなと思います。猛烈に寂しい気持ちになりました。

──また、環が塗りたてのペンキに手を付けてしまうシーンで、一気に感情が爆発していましたね。

(監督)あのシーンは、一番しんどそうでした。

(土手さん)しんどかったです。確か初日でしたよね?

(監督)初日でしたね。今までは、人と向き合うコミュニケーションのお芝居をずっとやってきましたが、あのシーンはただの物体と向き合って、そこで感情を表すので誰も助けてくれない状況でした。

僕自身も今でも思うところがあって、別にあそこまで感情的になるのかどうか、正解はないわけじゃないですか。別にはっと気づいて終わりでもよかったのですが、わーっと感情が露になる部分も生活の中で見られないと、OKできないという部分もありました。

(土手さん)本当に誰も助けてくれないから、自分の中で「これにはこういう意味があって…」という感じで、余計なことを考えてしまいました。

でも、最後にOKになった時は、撮影前に松野さんから「考えることは今までやってきたから、「触る」「見る」「気付く」といった所に意識を持って」「動きなどの決まっていることだけは考えて、その他は何も考えずにやってみたら?」と言ってくださったのを覚えています。そこで初めて、今までやってきたことが繋がった気がしました。やっぱり「触る」「見る」「気付く」というだけで、自分の中で何も考えていなくても、気持ちは動くんだなと思えたシーンでした。

(土手さん)話がまとめられない、助けて(笑)。


ふたりに委ねられた結末


──終盤に野里さんは犬との撮影もありましたが、大変でしたか?

(野里さん)いや、とても賢い犬で。最後のほうは少し大変でしたが、使われていたシーンはだいたい一回でオッケーでした。

(監督)僕たちが犬の扱いに慣れてなさ過ぎて、犬におびえすぎていました(笑)。相当朝早い時間の撮影だったのですが、急遽、唯一犬を飼っていた土手さんを呼んで、犬の世話をしてもらいました。ペットショップで「犬がハアハア言い出したら危険信号や」と言われていたので、犬がハアハアいうから不安になりました…。

(一同笑い)そりゃ言うでしょ(笑)。

(監督)常にドキドキしていました。長距離を車で移動させていたし、すごく暑かったから、もしかして死んでしまうのではないかと、ビクビクしながら撮影していました。

(土手さん)松野さんすごく心配されていました(笑)。

──香里と環のその後が気になりますが…。

(監督)ラストはネタバレになるので、あまり言えないんですけれども。既に観てくださった方はどのように捉えるか、意見が分かれていました。

──私たち(映画チア部の二人)も、意見が分かれましたね(笑)。

(監督)僕の中では、ふたりが最後どうなるとしても、環は割と映画の中でも、香里がどこかで大切な存在であるという思いが強烈にある人でした。一方で香里は、自分の意志がどこにあるのかイマイチわからなかったので、最後には自分の意志や価値観を表してほしいなというのはありました。

本当にラストシーンは撮影時まで決まってなくて、といいつつ誘導はしたりしていたけど(笑)。実はシナリオでは、完成どおりのラストではなかったんです。環には「自分の気持ちを強く持って頑張ってください」と伝えて、香里には「どうなってもいいから、自分の思いを伝えた方が良いのではないか」とだけ言いました。二人に恋愛相談されて、僕が答えるような演出の仕方で、ああいうラストになりました。

二人が幸せか不幸せなのかは、周りから見て思うことなので…。言ってしまえば本人たちの問題なんですが、映画としての決着としてはお互いにちゃんと向き合って、二人の気持ちがわかる瞬間が表れれば、映画の答えとしては提示されるかなと思いました。


それでも、さよならも出来ません


──みなさんが、これから考えていることなどがあれば教えてください。

(野里さん)僕はどちらかというと作りたいほうなので、作品も作っていきたいという思いがあります。もし奇特な方がいらっしゃれば少し出演させていただいたけるのは、本当にありがたいことで出られたらいいなと思っています。

(監督)彼は本当は役者志望というわけではなくて、自分で作りたい、監督したいという思いを持っていて、映画作りを勉強したいと思って俳優コースに参加したんですよね。

(土手さん)映画やりたいですね。これからも細く長く(笑)。

(上野さん)もちろん僕も、細く長く続けていけたらなと思っています。控えている撮影もあるので、少しずつ皆さんの目に留まるように頑張ります。

(監督)『さよならも出来ない』を撮影したのは2年前なんですけれども、上野くんはちょうど同じころに撮影を行っていた『ハッピートイ』という映画にも主演で出演しています。

(監督)お知らせになるんですが『さよならも出来ない』の上映が元町映画館でも決定しました!8月には大阪・第七藝術劇場で(8/26(土)~9/1(金)連日20:45~)、東京・K’s cinema(9月)でも上映が決まっています。

前作(『GHOST OF YESTERDAY』)が2006年で、今作まで10年近く自分の作品を撮れていなかったので、今回劇場公開が決まり本当にありがたい気持ちです。企画はたくさんあるので、今後は間隔を空けずにたくさん撮っていきたいです。

──最後に、みなさんが「さよならも出来ない」何かはありますか?

(監督)(この質問)用意してましたね?(笑)。

(監督)そういえば1つあって、言いづらいんですけれど、中高生の頃に男子ってエロ本が回ってくるんですよ。それが、今も20冊ぐらいあるんです。僕は結婚していて子どももいるんですけど、僕の部屋のある場所にずっと眠っていて。別にそれを事あるごとに読み返すわけではないんですが(笑)。ゴミで出しても恥ずかしいし、なんとなく捨てられないという理由だけで、永遠にそこにあって。でもそこにあるという存在は、ずっと気にかけているんですよね。意外とこれからも残しておいて良いかなって思っていて、唯一さよなら出来ないものがそのしょうもないエロ本ですかね(笑)。

(上野さん)僕も部屋に週刊誌あります。週刊○○みたいな。

(監督)それ、しょうもない話で乗り切ろうとしてない?(笑)。誰か良いこと一人ぐらい欲しいな(笑)。

(野里さん)京都!

(土手さん)そんなん!(笑)。

(監督)さよならしたいってこと?

(野里さん)いや、たぶん出来ない、したくもないなという感じですかね。あんまり自分が別の場所で暮らしているのが想像出来ないなと思っています。とか言ってすぐ引っ越してたらあれですけど…(笑)。

(野里さん)(土手さんに)どうぞ。

(土手さん)えっ!上野さんはさっきので許されたんですか?(笑)。

(上野さん)人でいうと、僕もずっと神戸に居るからなんですけど、元町映画館のスタッフの一人とは、小学校からずっと一緒ですね。たぶん、彼も別の仕事をしていたと思うんですけど、映画が好きと言っていて、シネマカレッジの配給コースを紹介したら行ったみたいで。そしたら仕事辞めていつの間にか元町映画館で働いていて…。さよならは出来ない人ですね(笑)。今もたまに家の近所のカラオケで、夜に一時間だけ二人で好きな曲歌うだけ歌って、そのまま帰るみたいなことをやったりします(笑)。

(土手さん)いい関係ですね~。

──それは、さよなら出来ないですね(笑)。

(土手さん)しょうもないこと思いついたんですけど、おじいちゃんですかね。

(監督)しょうもないって、おかしくない?(笑)。

(土手さん)おじいちゃんがね、亡くなったんですよ。94歳で。大往生だったんですけど、突然死んじゃって…。

(土手さん)すいません…。

(一同)どうしたんですか?(心配な感じで)

(土手さん)…いや、面白すぎて(爆笑)。

(監督)泣くんかなと思ったら!(笑)。

(土手さん)おじいちゃん、突然咳が止まらなくなって、龍角散のど飴とかにまみれたまま亡くなっていって(笑)。

(監督)そこ笑うところなん?(笑)。

(土手さん)本当に死んでしまったという実感が無くて、遺品整理とかするじゃないですか?今、出していいですか?

(一同爆笑)なになに?

(土手さん)これです!仕事の鍵に付けているんですけど、これがおじいちゃんの遺品で、(キーホルダーに)おじいちゃんの写真が入っているんです(笑)。これのおばあちゃんバージョンもあって、それは家に置いているんですけど(笑)。・・・これでいいですか?(笑)。

(監督)それと、さよなら出来ないってこと?

(土手さん)そうですね(笑)。一回付けちゃって、結構邪魔になるんですけど、でも外したらバチ当たるかなと思って(笑)。

(監督)誰も共感できない!(笑)。

(yumiko)


『さよならも出来ない』は、立誠シネマにて6/30(金)まで連日17:25~上映中。平日限定のポスタープレゼントもあり(先着順)。

今後は大阪・第七藝術劇場にて、8/26(土)~9/1(金)まで連日20:45~1週間限定レイトショー。ライブや舞台挨拶などのイベントも実施され、9月には東京・ケイズシネマ、さらに神戸・元町映画館での上映が決まっています。


■『さよならも出来ない』ストーリー
香里と環は別れてから3年も同棲生活を続けている。友人や周りの人間からは関係をはっきりさせた方が良いと言われるが、家の中に境界線を引き、ルールを設け、恋人、友人でもない生活は続いている。そんなある日、環は会社の同僚の浩に食事に誘われ、香里も同僚の紀美から思わせぶりな態度を示される。さらに環の叔母夫婦が二人の状況を探りに来る。二人はなぜ離れられないのか、別れるとはどういう事なのか。決断の時が訪れた。(公式サイトより)

■『さよならも出来ない』公式サイト|http://good-bye.cinemacollege-kyoto.com/
■『さよならも出来ない』公式Facebook|https://www.facebook.com/sayonaramo/

映画チア部

神戸・元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための映画宣伝隊。