友だちになれる、何度でも。韓国映画『わたしたち』ユン・ガウン監督インタビュー!
10月7日(土)のシネ・リーブル梅田を皮切りに、関西でも順次上映が開始される韓国映画『わたしたち』。″いじめ″という目に見えない悪魔に、少女たちはどう向き合うのか。小学校4年生の女の子たちを中心に、いじめやスクールカースト、家庭環境の格差など、現代社会が抱える問題を盛り込みながら、人生で初めて経験する友情、裏切り、嫉妬…すべての感情に戸惑い葛藤する子どもたちの姿を生き生きと鮮烈に映し出す作品です。韓国内のみならず、海外の多くの映画祭で賞を受賞するなど、今話題の作品となっています。
今回は、本作のユン・ガウン監督が来日されたということで、映画チア部がお話を伺いました!
大切な友達を失った心の痛みが、
私の中でずっと強烈に残っていた
●この映画が製作された過程を教えてください。
―まず、ストーリーは私の自伝的なものです。私が修士課程を卒業した韓国芸術総合学校と韓国のCJエンターテイメントという企業が手を携えて‘産学連携プロジェクト’の一環として立ち上がったプロジェクトでした。イ・チャンドン監督はシナリオの指導者として参加してくださっていたのですが、企画総括という役割も果たしてくださいました。そのプロジェクトは、1年に4~5名の学生を選抜し、それぞれが作ったトリートメントをシナリオに開発していくというものでした。一次選考では私と他に3人の学生が選ばれ、イ・チャンドン監督にシナリオをお見せし、ダメ出しを頂きながら改善させていきました。そして、最終的に当選したものがこの作品で、映画として完成させることができました。
●監督自身の経験からできたストーリーだとお聞きしましたが、監督はどのような少女時代を送られましたか?また、映画の登場人物に例えるなら誰ですか?
―まず、登場人物に例えるなら主人公のソンと一番似ていますね。ソンと同じく、明るく元気なお母さんがいて、面倒を見てあげるべき幼い弟がいて…。物静かで内向的な性格でした。長女として育ったので、家のことを手伝わなければならない責任感もありましたね。
具体的にどのような経験かというと、私は小学校5年生の頃に引越し、転校をしました。新しい学校で新しい友達と出会ったのですが、その子とは今までのどの友達よりも深い関係になれました。秘密もすべて分け合ったし、その子のことがとても好きでした。6年生に進級し、同じクラスになれたのですが、なぜかその子との関係は悪くなって、どんどん離れていってしまったんです。言葉も交わさず、ただお互いを傷つけあうような日が続き、理由もわからないケンカはまわりの友達までも巻き込んでいきました。そのような辛い1年間を送り、大切な友達を失った心の痛みが私の中でずっと強烈に残っていたんです。そのような経験がこの作品の出発点になりました。
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【あらすじ】学校でいつもひとりぼっちだった11歳の小学生の少女ソンは、転校生のジアと親しくなり、友情を築いていくが、新学期になると2人の関係に変化が訪れる。また、共働きの両親を持つソンと、裕福だが問題を抱えるジアの家庭の事情の違いからも、2人は次第に疎遠になってしまう。ソンはジアとの関係を回復しようと努めるが、些細なことからジアの秘密をばらしてしまい……。
子役たちの化学反応、本物の感情
●子役の演技力が光る作品でした。子役オーディションではどのような過程で最終的にキャスティングされたんですか?
―まず、キャスティングは10カ月ほど掛かりました。私とプロデューサーが書類審査をし、一次選考では個人的に会って30分ほどお話する時間を設けました。その時間のなかで合うと感じた子供達でグループを作って、グループオーディションをしました。そこでは、演劇ごっこと称して、私が先生となり子供たちが生徒となって1時間から1時間半ほど行いました。みんなでゲームをしたり体をほぐしたり、即興劇などをする姿をカメラで撮影していたんです。子供たちだけの空間でのお互いの相性、化学反応がすごく大事なので、そのビデオで子供たちの反応を見ながら選考を進めました。最終的には5次選考まで行われ、今の子供たちに決定しました。
●この映画は台本なしに撮影されたようですが、そうすることによって良かった点、大変だった点を教えてください。
―まず、子供たちに台本を与えなかったことで良かった点は、子供たちが自由に演技できたことです。どんな台詞を言うか、どう行動するかが決められていては、そのせいでストレスを感じてしまいます。また、演技の経験がない子たちだったので台詞を覚えるということもストレスになってしまいます。ストレスフリーな環境にしたことで、子供達は遊びに来る感覚で撮影にきてくれましたし、スタッフも良い雰囲気の中で作業ができました。
また、この映画は子供たちが主人公なので、私よりも子供たちの方が答えを知っているはずなんです。もし私が間違っていたら子供たちが直してくれると信じていたし、何度もリハーサルをしながら、子供たちの本物の感情を見つけ出そうと努力しました。
唯一の短所はとても時間がかかることです。一般の映画ってここまでしないんですが、今回はずっと演劇の練習をするように2~3カ月掛けてリハーサルをしてから撮影に入りました。台本を渡していないので、子供たちのアドリブが出るまで待つ時間も長かったですし、カメラマンや重い機材を持って待ってくれたスタッフには申し訳なかったです(笑)
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弟・ユンの名台詞はこうして生まれた!
●主人公ソンと弟のユンが話すシーンで、二人の喧嘩についての考えが全く違いましたよね。あの違いは男女の差なのでしょうか、または年齢の差なのでしょうか。
―あの台詞は私が考え出した言葉ではなく、私の知り合いの子供さんの経験談を聞いている時に実際に聞いた言葉でした。その子はまだ7歳で、非常に純粋な気持ちからその言葉が出たんだと思います。映画の中で弟は、まだ幼いので、ものすごく本能的で直感的な部分を持ち続けていると思います。単純な気持ちを閉ざさない性格は生まれつきかもしれませんが、年齢も幼いので姉のソンよりも複雑ではないですよね。なので、どちらかというと年齢の差から生まれた違いではないでしょうか。
●監督も弟さんがいるということですが、映画の中では弟のユンがお母さんから可愛がられる姿をソンが寂し気に見つめるシーンがありました。家庭内で末っ子や男の子だけが可愛がられる、そのような想いから作られたシーンなのでしょうか?
―そのように見えるかもしれませんが、男尊女卑を描くという意図は全くありませんでした。長女のソンは大人しくて良い子ですが、弟のユンはとても幼く世話が焼けるような性格なので、親としてはユンを構うしかないのだと思います。大人しく聞き分けの良い長女なので、悩みを親に軽く言えるタイプじゃないですし、だからお母さんも“この子は大丈夫だ”と思い込んでしまうようです。ただ、私も長女として育ちながらお母さんに甘えてみたいのに出来ない自分がいて、そんな中で甘えている弟を見ると羨ましいし嫉妬もしていました。
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作品後半、弟・ユンのある言葉に姉のソンは驚かされる。
●この映画では、女の子ならではの葛藤がたくさん見えました。もし、この主人公が男の子だったなら全く違う展開になっていたと思います。男女の違いについて、監督はどうお考えですか?
もし男の子の映画だったなら、もっと暴力的な映画になっていたと思います(笑)叩いたり蹴ったりもたくさんするでしょう。喧嘩もこんなに複雑にはならなかったでしょうし、加害者と被害者がもっとはっきり分かれるかもしれないですね。
男女で育てられ方は全く変わってくると思います。男の子は自分なりに表現してもいいし、喧嘩しながら大きくなるんだという考えだとしたら、女の子はそうではありません。女の子は友達を傷つけてはいけないし、おしとやかで良い子でいるべきだと育てられるため、自分の心を素直に表現して葛藤ができた場合に怖がらず乗り越える方法を知らないまま大きくなってしまうようです。
お互いに誤解ができてもちゃんと解くことができず一人で抱え込んだり、他の友達に話すときに陰口や悪口として攻撃的に伝わってしまいます。そのように女の子たちのおしゃべりや遊び方は男の子とは全く違うと思います。
そのような女の子の感情に集中した映画が無かったと思ったのでこの映画を作りました。男の子だったなら全く違う映画になっていたでしょう。
この映画を撮りながら、親や先生が女の子に対しても男の子と同じように教育するべきなんじゃないかと思いました。「大丈夫、もっと正直に言ってみな。もっとぶつかってみな。」そのような言葉を掛けていたら、女の子も葛藤に対して少しは怖がったり緊張したりすることもなかったのではないかと思います。
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“わたしたち”の話
●現代を生きる若者になにかひとことお願いします!
―私も若者なのに!(笑)学校を卒業して間もない気がしているので…(笑)
うーん…。
(言葉を詰まらせる監督)
●韓国でも日本でも、若者の悩みは似ていると思います。でも、実はこの子*(取材に同行していたチア部メンバー)は中学生くらいまで中国で生活していたのですが、中国の子供たちの間ではいじめが無かったらしく、話を聞いて驚きました。
―本当ですか!?実は先日も中国ではいじめは無いという話を聞いたんです!今2回目の衝撃が(笑)文化が違うんですね~。
韓国の大学生は非常に大変な状況に置かれています。大韓民国という国はどんどん難しくなっているし、上昇志向やたくさん稼がなければならないという思いが強くて。大学生になって自分自身を探したり、やりたいことを見つけるという考え自体が贅沢だと思われています。どうやって稼いで生きていくかという悩みばかりするようになってしまいました。少し特殊な環境かもしれません。
日本の大学生のみなさんがどのような悩みがあるのかはわかりませんが、似たような部分があるのではないでしょうか。
私も監督としてデビューしましたが、未だに私が監督になれるのか?と考えます(笑)監督と呼ばれることもまだおかしな感じで。いつまで映画を撮ることが出来るのかという不安は前よりも大きくなりました。答えが見つからない問いかけですね。
なにか惹かれるものがあったら積極的にやってみることが重要ではないでしょうか。
私は頭の中で考えてばかりであまり行動してこなかったのですが、今思えば、あの時やってみれば良かったなと思うんです。やってみたらそんなに怖いものでもないですし。なんでもやってみたら何かが見えてくると思います。できる時にとにかく行動に移すべきだということを伝えたいですね。
●これからご一緒してみたい日本の監督や俳優さんはいらっしゃいますか?
―たくさんいるんですが、是枝裕和監督が大好きで、是枝監督の新作を常に待っています。好きな俳優さんは樹木希林さん。本当に“ダイスキ”です(笑)
●日本の観客のみなさんにメッセージをお願いします。
―まず、日本で公開されるだなんて夢にも思っていませんでした。韓国内でも公開されるかわからない状況でつくりましたし。今、このように日本公開を控え緊張していることが私にとってとても幸せなことなんです。私に多くの影響を与えてくれた日本映画は本当にたくさんありますし、好きな日本映画もたくさんあります。
この映画が少し重いテーマを扱っているようにも思えますが、中には笑える部分もありますし、何よりも、“わたしたちみんなの話”なので、日本の観客の皆さんには楽な気持ちで観に来ていただき、劇場を後にする際には少しでも希望や力をもらっていただけたらなと思います。
(左)ウネ(真ん中)ユン・ガウン監督(右)かきん
*取材メンバーのウネは韓国留学経験があり、
同行したかきんは幼少期を中国で過ごしました。
誰もが経験してきた少年、少女時代。幼き日々の自分を思い出しながら、老若男女問わず、
すべての人の心に響く作品です。本物の感情を追求したからこそ生まれた子どもたちの名演技を、ぜひ劇場でご覧ください!
【profile】
監督・脚本:ユン・ガウン
1982年生まれ。西江大学で、歴史と宗教学を専攻の後、舞台や美術の仕事を経て、ソウル総合芸術学校映像院へ。ソウルの中学、高校の映画クラブで講義や映画博物館で、メディアについて子供たちに教えながら、映像院在学中に短編映画を演出。現代を生きる子供の親密で閉鎖的な生活や内に秘めた悩みや問題を等身大で表現するよう努めている。
『わたしたち』
9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
【関西の劇場情報】
大阪 シネ・リーブル梅田 10月7日(土)
京都 京都シネマ 順次公開
兵庫 元町映画館 順次公開
MOVIXあまがさき 11月18日(土)
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監督・脚本:ユン・ガウン
企画:イ・チャンドン
出演:
チェ・スイン、ソル・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン
製作:チョン・テソン
プロデューサー:キム・スンモ
撮影:ミン・ジュンウォン、キム・ジヒョン
The World of Us
(原題 U-ri-deul)
2015年|韓国映画|カラー|94分|1.85:1|DCP
日本語字幕:根本理恵
提供:マンシーズエンターテインメント
配給:マジックアワー、マンシーズエンターテインメント
(ウネ)
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