共感度0%、不快度100% でもこれは、まぎれもない愛の物語 『彼女がその名を知らない鳥たち』蒼井優さん、阿部サダヲさん、白石和彌監督舞台挨拶
9月30日(土)、梅田ブルク7にて映画『彼女がその名を知らない鳥たち』の舞台挨拶が行われ、本作主演の蒼井優さん、阿部サダヲさん、そして白石和彌監督が登壇した。
嫌な女・十和子(蒼井優)、下劣な男・陣治(阿部サダヲ)、ゲスな男・水島(松坂桃李)、クズすぎる男・黒崎(竹野内豊)。“共感度0%”の最低の登場人物しか出てこないのに、ページをめくる手が止まらないと話題を呼び、20万部を超えるベストセラーとなっている人気ミステリー小説が、ついに映画化された。(公式サイトより)
左から阿部サダヲさん、蒼井優さん、白石和彌監督
今回は上映後の舞台挨拶。三人が登壇すると会場には大きな拍手と歓声が起こる。不潔で下品な男・陣治を演じた阿部さんは「今日はちょっと綺麗にしてきました。」という一言で会場を湧かす。 “遅れて出てきた演歌歌手のようだ”とからかわれたらしいスーツは、今回のキャンペーンの為に“ジンズィ”というブランドを作ってもらってオーダーしてもらったものだとか。舞台挨拶中は三人の交える冗談と時折こぼれる作品への熱い思いが入り混じった、なんともあたたかで和やかな舞台挨拶であった。
「松坂桃李、嫌いだなあ(笑)」
完成した作品を観た感想を聞かれ、蒼井さんが「この映画は自分が出てくるとか関係なく、すごく好きな映画だった。」と率直な感想を言った後、「撮っている時は自分と蒼井さんのシーンが多く、他の男二人(松坂さん、竹野内さん)に会ってなかったので、『どうしようもねえ奴らだな』と映画を観て思った。本当に僕は松坂桃李が好きじゃないです(笑)あいつ嫌いだなあ(笑)」と阿部さんが冗談を飛ばす。
白石監督は「“究極の愛”というキャッチコピーだが、これは“陣治の無償の愛”の話で、僕としては美しく思えたし、絶対に真似出来ないと思った。それをなんとか映像化したいという気持ちで本作を撮った。」と本作の核心部分と意気込みについて話していた。
関西弁の難しさ
主演の二人は関西弁で役を演じているが、それは思った以上に難易度の高いものだったという。二人とも方言指導の方に家庭教師のようにつきっきりで教えてもらったそうで、「俺、あいつも嫌いになっちゃたな(笑)」と再び冗談をこぼす阿部さん。しかし関西弁だからこそ生まれた世界観があったようで、「この作品は関西弁だったから助かっている部分はあると思う。標準語で言っていたら手に負えないかもしれないし。関西弁だとどこか柔らかく感じるというか。」と語る阿部さんに蒼井さんも大きくうなずいていた。
関西は人との距離が近い場所
全編関西でロケを撮ったということで、改めて関西の印象を聞かれた白石監督は「人と人の距離が近いな、と感じた。標準語を話している人よりも関西弁のほうが本音で語り合っているような印象を持った。この二人(十和子、陣治)は嫌なことは嫌と言う。その感じも良いな、と思った。」と答えていた。関西弁のみならず関西人の情の深さといったものがあるのかもしれない。
役に対する共感度はやっぱり“0%”?
“共感度0%”という衝撃のキャッチコピーであるが、役に対する共感度を聞かれ、「0%だったが、演じていると(十和子は)嫌な女というよりも、すごく単純な人に思えた。人間関係においてはめんどくさい女ではあるが、澄んでいるような印象があった。」と答える蒼井さん。阿部さんは「そんなに共感できるところはない。しかし直したいところはいっぱいある。食べ方も汚いし、差し歯も(笑)そういう役だからこそ楽しめた。」
陣治の“不潔さ”へのこだわり
阿部さんが足の指の間にもゴミ詰める徹底ぶりであったようだが、白石監督は陣治の身なりにはこだわりがあったようで「衣装合わせでも、最初は綺麗な作業着しかなくて、『こんなんじゃ衣装合わせできねえ、今すぐ汚いのを持ってこい』って暴れ倒して(笑)結果こういう風になった。東京撮影所での阿部さんのみのカメラテスト時に、阿部さんに立ちション(劇中にはないシーン)の真似をしてもらって、そのときに仕上がっているな、と思った(笑)」と制作の裏話を語っていた。
水島と黒崎の別ジャンル“最低”
本作には主演の二人に加え個性豊かな共演者が数多く出演しているが、特に松坂桃李さん、竹野内豊さんは今までにないような役どころであった。
共演した感想を聞かれ、「共演は二人とも初めてだったが、二人とも本当に最低で(笑)こんな最低な役を最低なままで出来るというのは、本当にすごいことだと思う。」と話す蒼井さん。
「松坂さん演じた水島は最低さに加えて薄さもあり、竹野内さん演じた黒崎の場合は、画面にはただの最低な男にしか映ってないが、相手役(十和子)にしか伝わらない悲しみの様なものがあった。“最低”の別ジャンルを同時にみせてもらった、という感じ。」と水島と黒崎の別ジャンルの“最低”を解説していた。「この映画では役者さんにとって“最低”というのが一番の褒め言葉だと思う。」という蒼井さんの言葉通り、主演に加え共演者の二人のクズっぷりは本作の見所の一つであろう。
大阪舞台挨拶の目玉“かの鳥さん”観測企画
“共感度0%、不快度100%”というキャッチコピーということでこの会場の様々なパーセンテージをはかる企画は、イエスの場合は事前に配布された旗の“かの鳥さん(本作のイメージキャラクター)”の面、ノーの場合は裏面を挙げるものとなっており、かの鳥さんの数を観測するためにバードウォッチャーが登場すると、すかさず阿部さんが「胡散臭いなあ」とツッコミ。
ゲストからの様々な質問が飛び交う中、蒼井さんの「あんな(最低な)水島でもいいと思う」には意外にも23%の人がイエスと答えた。女性の場合、十和子予備軍、男性の場合、一周回って羨ましい、ということなのだろうか。
また白石監督の「映画のキャッチコピーは“共感度0%”であるが、この映画、または作中の誰かには共感した、という方」には93%の人がイエスと答えていた。良い意味で裏切られる、そんな見応えのある本作であるからこその回答であろう。
メッセージ
白石監督「ゲスだとかクズだとか最低な人達というのが全面には出てきているが、それは表層的なもので、その奥に人間の愛というか、そういうものが提示出来たのではないか。色々分かった後に観返すと全ての世界が美しくみえる話だと思う。」
阿部さん「『愛ってなんなんだろう』と考えさせられる映画。なかなかこういう映画はない。キラキラした映画もいいが、こういう映画もあったほうが絶対にいいし、そういう映画に出たいと思う。あれだけ汚すことももうないかもしれないし(笑)」
蒼井さん「こういう映画が作れる日本映画界でありたいと思う。この作品はある種賭けでもある。共犯者だと思って応援してほしい。」
三人の熱のこもったメッセージで締めくくられた今回の舞台挨拶。
最低の先に真実の愛はあるのか。
見逃すことの出来ない本作は、10月28日(土)より梅田ブルク7ほかにて全国ロードショー。(ゆづ)
予告編
作品情報『彼女がその名を知らない鳥たち』(公式サイト: http://kanotori.com)
15歳年上の男・陣治と暮らしながらも、8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられずにいる女・十和子。不潔で下品な陣治に嫌悪感を抱きながらも、彼の少ない稼ぎに頼って働きもせずに怠惰な毎日を過ごしていた。ある日、十和子が出会ったのは、どこか黒崎の面影がある妻子持ちの男・水島。彼との情事に溺れる十和子は、刑事から黒崎が行方不明だと告げられる。どれほど罵倒されても「十和子のためだったら何でもできる」と言い続ける陣治が執拗に自分を付け回していることを知った彼女は、黒崎の失踪に陣治が関わっていると疑い、水島にも危険が及ぶのではないかと怯えはじめる――。(公式サイトより)
Profile
蒼井優(北原十和子役)
1985年8月17日生まれ、福岡県出身。99年にミュージカル「アニー」で舞台デビュー。映画初出演となった岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』(01)で脚光を浴びる。04年に同監督の『花とアリス』で初主演を飾り、『ニライカナイからの手紙』(05/熊沢尚人監督)で初単独主演を務める。翌年に主演を務めた『フラガール』(06/李相日監督)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞と新人俳優賞を受賞、他数多くの賞を総なめにした。その他の主な映画出演作は『ハチミツとクローバー』(06/高田雅博監督)、『クワイエットルームにようこそ』(07/松尾スズキ監督)、『百万円と苦虫女』(08/タナダユキ監督)、『おとうと』(10/山田洋次監督)、『東京家族』(13/山田洋次監督)、『春を背負って』(14/木村大作監督)、『家族はつらいよ』(16/山田洋次監督)、『オーバー・フェンス』(16/山下敦弘監督)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16/松居大悟監督)、『家族はつらいよ2』(17/山田洋次監督)、『東京喰種 トーキョーグール』(17/萩原健太郎監督)、『ミックス。』(17年10月21日公開予定/石川淳一監督)など。
阿部サダヲ(佐野陣治役)
1970年4月23日生まれ、千葉県出身。 92年より松尾スズキ主宰・大人計画に参加。同年に舞台「冬の皮」でデビュー。映画やドラマ、バンド「グループ魂」のボーカルとしても活動するなど、幅広く活躍している。07年に映画初主演を務めた『舞妓Haaaan!!!』(水田伸生監督)で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。現在放送中のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』には徳川家康役で出演しており、19年に放送予定のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』では主演が決定している。またその他主な映画出演作は『妖怪大戦争』(05/三池崇史監督)、『なくもんか』(09/水田伸生監督)、『夢売るふたり』(12/西川美和監督)、『ぱいかじ南海作戦』(12/細川徹監督)、『奇跡のリンゴ』(13/中村義洋監督)、『謝罪の王様』(13/水田伸生監督)、『ジヌよさらば~かむろば村へ~』(15/松尾スズキ監督)『殿、利息でござる!』(16/中村義洋監督)など。
監督:白石和彌
1974年12月17日生まれ、北海道出身。95年に中村幻児監督主催の映像塾に参加。以後、若松孝二監督に師事し、行定勲監督や犬童一心監督などの作品にフリーの演出部として携わる。10年に長編監督デビューを飾った『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で注目を集める。長編監督作2作目となるノンフィクションベストセラーを映画化した『凶悪』(13)で、新藤兼人賞2013金賞をはじめ、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を席巻し一躍脚光を浴びる。16年には、現役警察官の有罪判決で世間を騒然とさせた稲葉事件をモチーフとした原作を映画化した『日本で一番悪い奴ら』と、日活の成人映画レーベル“ロマンポルノ”45周年を記念し発足した「日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」第3弾を務めた『牝猫たち』という全く違うジャンルの作品を手掛けた。今後の公開待機作は、役所広司主演『孤狼の血』(18年春公開予定)等。(公式サイトより)
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