第12回大阪アジアン映画祭にて世界初上映!-第13回シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)助成監督、俳優特待生インタビュー-

2004年度より映像制作者の人材発掘を行い、大阪を映像文化の創造・発信拠点とすることを目指してスタートしたシネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)。これまで横浜聡子、石井裕也、三宅唱など日本映画界に多彩な才能を輩出してきた。

第13回となる今回は、谷口恒平監督『おっさんのケーフェイ』・木村あさぎ監督『蹄』・五十嵐晧子監督『可視化する心たち』3作品への助成が決定し、無事完成を迎えた。第12回大阪アジアン映画祭(3/3(金)~3/12(日)開催)でのプレミア上映を控える今、谷口監督・木村監督・吉田龍一さん(『可視化する心たち』主演・CO2俳優特待生)にインタビューを行った。

(左から『可視化する心たち』主演・吉田龍一さん、『蹄』木村あさぎ監督、『おっさんのケーフェイ』谷口恒平監督)


「不寛容な空気が流れる社会に抗うような映画を作りたい」(谷口監督)


将来の夢も特技もない小学生のヒロトはある日、人気覆面プロレスラー《ダイナマイトウルフ》の試合を観て、初めて夢中になれるものを見つける。大阪を舞台にしたプロレス映画である『おっさんのケーフェイ』は、プロレスを通して子供たちが世界との向き合い方を学んでいく成長物語であり、王道の娯楽作品だ。今までで一番の自信作と語る谷口監督は、今作で一体何を描こうとしたのか?

--今回CO2の助成によって作品を完成させたわけですが、ずばり満足のいく仕上がりになりましたか?

谷口監督(以下、谷口)  はい。今までで一番の自信作になったと思っています。これまでは自分一人で撮影、脚本、出演もしたりしていて、自分の範疇で作れる映画作りをずっとしてきたのですが、今回は制作に関して大阪の道頓堀プロレスさんに全面的にご協力いただきましたし、他にもカメラマン、脚本家など色んな人たちが本気になって向き合ってくれたので、多くの人に観てもらいたい作品になりました。

--きっちりとした王道のエンターテイメント作品だと思うのですが、その中に社会派的な部分も感じました。

谷口 そうですね。敗者と言われるような人たちに対して不寛容な空気が流れる社会だと思うんですが、そういうところに抗うようなものを作りたいと思ってずっと映画をやっています。ですがそれを直接描くのではなく笑える形であったり、今回だとプロレスというものを通して社会の在り方に抗う人たちの話を見せたいなと、そういう風に思ってます。

--子供たちにプロレスを教える主役の正体不明のおっさん・坂田役を川瀬陽太さんが演じられていますが、川瀬さんのキャスティングはどのように決めたのでしょうか?

谷口 もともと企画の段階でこの人、というのは決まってなくて、中年の元レスラーか怪しいおじさん、ということだけ決まっていました。最初はプロレスラーの方にやっていただくという案もあったんですが、CO2の助成が決まって話を進めていく中で川瀬さんがいいんじゃないかという案が出て。僕の自主映画に川瀬さんは一度出ていただいたことはあって、お話をさせていただいたら興味を持っていただいて川瀬さんに決まったという形になります。川瀬さんを軸に役のイメージが出来ていったという部分がありますね。

川瀬さんとお話する中で格闘技も含めたプロレスファンということが分かって、僕以上にプロレスの映画をやるということにすごい真摯に向き合ってくださって。今回プロレスラーの方も役者として出ていただいているんですけど、その方たちへのリスペクトも強く、現場でも体を張ってくれました。なかなかこんな小さな映画にここまでやってくれるっていうのは、プロレスに対してここまでやらないといけない、というのが本人の中にあったからだと思うので、川瀬さんにお願いしてよかったなと思います。

--川瀬さんがご自身のTwitterで作品のタイトルについて「最初は抵抗があった」とつぶやかれていました。「ケーフェイ」という単語はプロレスラーの隠語なわけですが、それをわざわざタイトルに入れたのはなにか意味があるのでしょうか?

谷口 「ケーフェイ」という単語に関しては、僕の口からこういう意味ですと説明すべきではないと思って、映画の中でも具体的な説明はしませんでした。もともとこの企画自体がプロレスの映画をやろうと決まっていたわけではなくて、僕自身が映像の仕事で心霊ビデオのDVDを作った時に感じた、なんとか嘘を本当に見せようとすることそのものにロマンを感じて。引きで見るとバカバカしい部分もあるんですけど真剣にそういったことをしているというのが面白くて何か企画に出来ないかと考えていたんです。でもなかなか心霊ビデオを作る男たちが主人公の映画っていうのがうまく転がらなくて、ちょっと大胆に置き換えて嘘を本当に見せる職業としてプロレスラーを持って来ました。

ケーフェイという単語はなんとなく知ってはいて。ファンであればあるほど口にはしない言葉ではあるのですが、僕はそういう部分が面白いな、どこまで嘘か本当か分からない部分が面白いなという外側からの視点でこのタイトルにしました。タイトルをつけた段階ではその言葉がそこまで重い物だとは思ってなくて、道頓堀プロレスさんの人たちに「タイトルこれでいこうと思ってます」と言ったらギョッとされまして。物語の中でどこまで描くべきなのか、という部分まで色んな話し合いをさせていただきました。ご協力いただけた中でこのタイトルを認めていただいたことには本当に感謝していますし、”ケーフェイ”という言葉を使ってプロレスのロマンを壊したいわけではないので、そこは大事にしていきたいところではあります。

--映画の中で子供たちが教室でプロレスごっこをするシーンがありますが、教室にいる女の子たちがドン引きしているリアクションにショックを受けました。今の子供たちがプロレスを知らないというのもあると思うんですけど、これは嘘なんですよ、演技なんですよというのが他の人から見たら伝わりづらいという、現代の空気感も感じました。

谷口 そうですね。昔であればああいうプロレスごっこをこどもたちがしているというのは当たり前の光景だったと思うんですけど、脚本の時に今の小学校でリアルにプロレスごっこをしたらどんな反応になるのかなと考えたら、映画の中で描いたような反応になりました。

--学校の先生もひどい反応でしたね。特技はなんでもいいよと言ったのにプロレスだと怒るっていう。

谷口 (笑)でも、なんかああいう先生いたなと。表面上は「自由に個性を伸ばしなさい」とか優しいことを言っているけど出る杭は打つ、という大人の人たちが。自分が子供の時に周りの大人たちをそんな風に思っていたので。子どもたちはリアルに今の子供の感覚を取り入れようとしたんですが、大人たちはこんな人いるのかなってぐらい記号化された存在として、子どもたちの目から見た存在として描くことにしました。

映画『おっさんのケーフェイ』より。道頓堀プロレス協力による迫力のプロレスシーンは必見!



「これが当たり前だと言われてるものをそのまま受け入れるだけの人になりたくない」(木村監督)


花屋の男・悠は、「私、ウシなの」と言い残して死んだ元恋人・桐華の言葉の意味を追い、故郷である南の島に辿り着く。そこで、虫屋として生きる兄・明善と再会。蛾研究に没頭し、蛾の化身 ≪キ≫に取り憑かれた明善と共に、悠は《ウシ》を探す。木村監督がこれまで問いかけ続けてきたテーマ「身体への疑い」とは?

--木村さんは今回なぜCO2に応募されたのですか?

木村監督(以下、木村)  わたしは沖縄県出身で、18歳の時に上京して東京のイメージフォーラム研究所という所に通って映像制作をしていたんですけれど、その時は映画制作というよりごく少人数で個人的に作るというやり方をしていました。しばらくしてCO2の存在を知りました。自主制作でありながら劇場公開ができるレベルまでの作品を目指すというCO2の存在を知って、自分の内輪な、閉鎖的な制作環境から脱したいという思いがあったので応募しました。

--今回の映画『蹄』でやりたかったことはなんでしょうか?

木村 今回の作品は、私がこれまで制作してきた作品と繋がるテーマで「身体への疑い」というのがあります。簡単に言うと、小さいころから自分の身体に対して持っているコンプレックスなどがきっかけとしてあるんですが、身体の不確かさとか、この身体はどういう存在としてあるんだろうというところを、その姿が、人間という姿から牛であったり蛾に変わったり、またはイメージの中の存在に置き換えることで、姿が変容していく中で身体の不確かさ、でも変容していく中でもそれを追い求めている第3者がいてそれによって姿が成り立っている、そういったことを表現したくてこの映画を作りました。

--(CO2のプレスに)ツァイ・ミンリャン監督の作品に影響を受けたと書いてあったんですが、やはり自分の作る作品の中にもその影響はありますか?

木村 ツァイ・ミンリャンはものすごい影響を受けている映画監督なんですけど、私がこれまで作ってきた作品はイメージ映像やPVと言われたり、単なるイメージの連なりでしかないという、自分ではそう思って作ってはいないんですが、観ていただいた方からそういわれることが多くて。今回そこから、伝えるということを目指して制作するという目標を掲げました。

--ストーリーが最低限の映画だったと思うんですが、あの映像イメージはどうやって作っていったんですか?また、それをどうやって出演者の方たちに伝えたのでしょうか?

木村 脚本を作る前に小説として一度物語を全部書いたんです。物語を作るという部分に挑戦しようというところでやってみたんです。登場人物たちのその時の心情を中心に書いたんですけど、出演者の方には脚本の前にまず小説をお渡ししました。登場人物たちの気持ちを共有したくて、読んでもらった上で役者さんと話して演技に臨んでもらいました。

映像イメージに関しては、ぽんと浮かぶものもあります。特に水牛はぽんと浮かびました。でも、実際に撮影する場所に行ったり、スタッフの方や役者さんとのコミュニケーションの中で生まれたものも多かったです。役者さんも分からない部分も多かったと思うんですが、皆さん投げ出さずに私に寄り添ってくれました。特に〈キ〉役の打越梨子さんとは何か月も話して一緒に作っていったという感じです。

--大阪アジアン映画祭で初めて上映されるわけですが、これから『蹄』を観る観客にどんなことを感じたり考えてもらいたいですか?

木村 一番は疑いを持ってほしいってことです。この作品のテーマである自分自身への疑い、身体への疑いっていうのもそうだし、映画への疑いも持ってほしいなって思っていて。私はさっきも言ったようにツァイ・ミンリャンの映画が好きなんですけど、初めて観た時に「映画ってこれでいいんだ」って思って。じゃあこれまで自分が映画だと思っていたものってなんだろうって思って。それが自分の中で大きい気付きで。それは今回の作品にもつながっていて、今まで体と思っていたもの、映画だと思っていたものは違うかもしれないって、そういうことを考えたいなと私は思っていて。これが当たり前だと言われるものをそのまま受け入れるだけの人にはなりたくないと思って。疑うっていう所を観終わって少し思ってもらえたらなと思います。

映画『蹄』より。大阪だけでなく八重山諸島、監督の故郷である沖縄でも撮影された。


「真崎トオルは、今まで僕がやったことのないタイプの役だった」(吉田さん)


≪心を可視化する機械≫の実験で発生した事故。調査名目で「実験中止」を言い渡しに研究室を訪れたトオルは、事故で意識を失った開発者の妻・碧に心を奪われる。しかし、眠り続ける開発者と碧の心を繋ぐためには、実験の成功しか道はなかった。CO2俳優特待生総出演でもある本作で、吉田さんは自分の中で真崎トオルは挑戦だったという。

--吉田さんは今回CO2の俳優特待生として『可視化する心たち』に主演をつとめられたわけですが、この作品に出てくれと言われ、率直にどう思われましたか?

吉田さん(以下、吉田)  正直なところ、プロットをいただいた時点であらすじはなんとなく想像できてはいたんですけど、そのプロットと監督が話した内容にちょっと違和感があって、まだフワフワしているなというのは初めの段階であったんです。あと、セリフがすごく多くて、どっちかというと苦手なタイプだったのかなとは思います。

--実際に撮影に入られてからはいかがでしたか?

吉田 初日に入る時に、どうしてもつかめない部分があって不安だらけでした。僕そういうのが初めてで(笑)本当に不安でどうしたらいいのかなって、台本を読むしかないし今まで経験してきたことを、感覚を研ぎ澄ますしかないなと思って。結局初日は納得のいく演技ができなくて。2日目終えたぐらいに作品の本質じゃないですけど、何か感じたものがあったんです。それで次の日に入って撮ったシーンが作品的に山場だったんです。監督と話しているときに「私が思っている以上のものが見れてる」とおっしゃってくださって。そこからそれで行ってくださいってことで、その言葉を信じていきましたね。

--そこからは迷わずに演技ができたということですか?

吉田 俳優はその役を生きろってよくあると思うんですけど、果たしてそれが全部正しいのかっていうのは僕の中としてはあるんで、正直。その場の空気感だったりを僕は大事にしたいんで。そこと作品の本筋みたいなものはぶらさずにやれたらいいな、とそれだけ意識してやりましたね。

--ほかの役者さんとのコミュニケーションはどうでしたか?

吉田 共演者の方たちとは仲良くやれましたね。これまで僕が別の作品でやってきた役が、今回演じた真崎トオルと全然違う役で、真崎トオル自体もすごい抜けてる感じでいけたので、現場に入っても楽でいれました。

--吉田さん自身の解釈として、「心を可視化する」というこの作品のアイディアに関して、どういう風に演技されたんですか?

吉田 もともと僕が提案した芝居と、監督が求めていたものと違っていたんです。どっちかっていうと僕はどこかで狂気じみた感じを出したかったと思っていたんです。分かりやすくではなく、含んでいるというような感じで。でも監督はその狂気はいらなかったらしくて、じゃあ省きましょうってなって。実際にした芝居はちょっとさめているような感じのものになっています。

--特にラストのシーンでは、どんどんセリフが畳みかけるように続いていって圧巻でした。テストも多かったのではないかと思いますが。

吉田 最後のシーンは撮影当日にもらって、2シーン撮る予定だったんです。1シーン目が12時ぐらいに終わってそこからラストシーンの2シーン目に入る時に、そんなセリフ自体がないと思ってたんです。感情的な部分で見せていくのかなと思ってたんですけど、もらったら2枚分ぐらいあって、いやマジかって思ったんですけど(笑)、そこから1時間ぐらい覚える時間をいただいてテストして本番撮りだしてって感じでしたね。そこは今まで撮ってきた中からそのまま言葉を出すだけだったので、そこまで考えたりはしませんでした。さっきも言ったように自分が今までやったことのない苦手なタイプだったんですけど、後悔なくやりきれたかなと思っています。

映画『可視化する心たち』より。《心を可視化する機械》を巡って一体何が起こったのか?


今年も三者三様の映画が完成したCO2。実は、「助成企画募集」に対する大阪市からの助成が終了し、現体制でのCO2事業は今年度が最後になります。これまで映画チア部として『螺旋銀河』草野なつか監督、『Dressing Up』安川有果監督、『食べられる男』近藤啓介監督、『見栄を張る』藤村明世監督、『私は兵器』三間旭浩監督とCO2作品を手がけた監督たちにお会いしてきましたが、CO2が輩出する才能はこれからの日本映画界を切り開いていくと言える存在ばかり。これからの映画を生み出してゆく新たなる才能たちを、あなた自身の目で確かめてほしい。(こ)


作品情報■『おっさんのケーフェイ』
監督:谷口恒平
出演:川瀬陽太、松田優祐、小林陽翔、埜田進 、神保舜莉紋
Twitter:@taniguchi2017
第12回大阪アジアン映画祭にて世界初上映!
上映日:3/6(月)21:15~の回(阪急うめだホール)、3/10(金)12:00~の回(シネ・リーブル梅田4) ★両日ゲスト登壇予定!
クラウドファンディングも実施中!→https://motion-gallery.net/projects/ossannokayfabe

作品情報■『蹄』
監督:木村あさぎ

出演:木村知貴、イシヅカユウ、木村正明、打越梨子、横田光亮
Twitter:@hizume_movie
第12回大阪アジアン映画祭にて世界初上映!
上映日:3/8(水)18:40~の回(シネ・リーブル梅田4)、3/10(金)14:10~の回(シネ・リーブル梅田4) ★両日ゲスト登壇予定!
クラウドファンディングも実施中!→https://motion-gallery.net/projects/hizume_movie

作品情報■『可視化する心たち』
監督:五十嵐皓子
出演:吉田龍一、白河奈々未、申芳夫、伊吹葵、青山雪菜
第12回大阪アジアン映画祭にて世界初上映!
上映日:3/4(土)21:15~の回(シネ・リーブル梅田4)、3/10(金)16:20~の回(シネ・リーブル梅田4) ★両日ゲスト登壇予定!
クラウドファンディングも実施中!→https://motion-gallery.net/projects/mecha_tele_co2_cf

シネアスト・オーガニゼーション大阪(CO2)HP→http://co2ex.org/
第12回大阪アジアン映画祭HP→http://www.oaff.jp/2017/ja/index.html