あるところにバンドマンが転がっていたんです―『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』黒川幸則監督インタビュー(前編)
突然不思議な町に迷い込んだバンドマンが住人たちと共に過ごす酩酊の日々。ピンク映画界で異彩を放ってきた監督・黒川幸則の自主制作に、映画に限らず音楽や現代アートに関わる個性的でフレッシュなスタッフ&キャストが顔を揃えた本作が、いよいよ6/3より関西でも上映されます。
今回は、本作について黒川幸則監督にお話を伺いました。どのようにしてこの作品は生まれたのか?本作とそれをとりまく人々に迫ります。
フィルムで撮りたいっていうのがあるじゃないですか、僕らは、欲望として。それができなくなるんだったら、デジタルでピンク映画を撮るくらいだったら、で、お金も全然ないんだったら、これ、もう自主でやっても同じだなあって
―本作の制作に至る過程を教えて下さい。
脚本の山形君(山形育弘)が、僕の先輩の鎮西尚一監督の映画に出演してたんです(*1)。僕は昔、鎮西監督の助監督をしていたので、そこで、鎮西さんから面白いやつがいるって紹介されて。「山形に脚本書かせてみろよ。こいつは書けるぞ」って。そうして2年くらい付き合っているうちに「そろそろやるか!」と言って、始めたんですよ。
―では、黒川監督が「自主映画を撮ろう」という思いよりも先に、山形さんの「脚本を書きたい!」という思いがあったんですか?
彼らのライブ(山形さんが活動している「core of bells」というバンド)とかを観に行って、ちょっとずつ仲良くなって。僕はずっとピンク映画をやっていまして。人のお金で撮らせてもらうにせよ、お金にならない仕事をずっとやっていて。ピンク映画は2010年くらいにフィルムからデジタルに移ったんですよ。それで、予算も減って。ピンク映画のよかったところって何かというと、フィルムで映画が撮れたところ。フィルムで撮りたいっていうのがあるじゃないですか、僕らは、欲望として。それができなくなるんだったら、デジタルでピンク映画を撮るくらいだったら、で、お金もぜんぜんないんだったら、これ、もう自主でやっても同じだなあって思って。ずーっとやりたいと思っていたんだけれど、自主映画ってものは。ただ、僕、自主映画やって目立つような個性の持ち主でもないし…。
―え、そうですか?
そうなんです(笑)まあ、機をうかがっていたと言いましょうか。
―丁度そのタイミングで、山形さんの脚本を書きたいという話もあって。
でも、お互い映画の好みが違うし、なかなか難しかったことは難しかったですね。最初、これ、「ラブコメを作ろう」って言って作り始めて。
―らしいですね!(*2)
そうそう、ちょっとくらい、片鱗はあるんじゃない?(笑)山形君って、黒沢清さんや高橋洋さんのホラー映画が好きだったり、心霊スポットにやけに詳しかったり、日本の古代の信仰なんかにも関心が深くて研究熱心で。でも、僕は怖い映画が苦手なもので…それで共通項を探した時に、(お互い)ラブコメは観てたんです。じゃあラブコメやろうって。ドリュー・バリモア(*3)とか、コメディ映画の、そういうものがすごく好きだったので。じゃあ、それならできるかなって思ったんだけど、シナリオを書き始めたらなかなか…。半年くらいかかって、できてくるんだけれど、僕が撮れる感じじゃないなあって。ただ、締め切りがあるわけじゃないから、ダラダラやっていくうちに、「これもう辞めようか」なんてところまでいって。その時、最後に「じゃあ一度、好きなことを書いてみてよ」って言ったら…。
―できたのが、本作!
(*1)鎮西尚一監督『ring my bell』に本作で脚本を務めた山形育弘が出演している。
(*2)本作の公式サイトに掲載されている「プロダクション・ノート」にも本作がはじめはラブコメであったという話があり、それで知っていた。「プロダクション・ノート」では、本作の制作過程を垣間見ることができます。→★
(*3)ドリュー・バリモア: 俳優一家であるバリモア一家に生まれ、生後まもなくしてCMに出演。4歳の時『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』で映画デビュー。82年に『E.T.』のガーティ役で人気を爆発させた。近年は『25年目のキス』、『チャーリーズ・エンジェル』など自ら出演しながらプロデューサーとしても活躍している。
→最近の作品では『遠距離恋愛 彼女の決断』『マイ・ベスト・フレンド』がオススメ。初監督した『ローラーガールズ・ダイアリー』も傑作です。(by黒川)
いろんなものを取り込んでいきたいと思っていて。いろんな人や、言葉や、姿を取り込んでいきたかった
そう、これこれ。(監督、実際に使っていたシナリオを取り出す)
―ああーー!これ!!ほしいくらいで!
いやいや(笑)これ、最初はタイトルが違ったんですね。『LOSS TIME before magical night falls』っていう。で、少し見せると…(シナリオの表紙をめくって始めのページを見せ、シナリオを読み始める)「バンドのツアーバンが、何者かを落として去る。中西がギターケースと一緒に放り出されている。」で、その後に「しばらくして窓から古賀が手招きしているのに気づく。中西、遠慮がちに店内へ。古賀に酒を振舞われ、恐縮している。店内の音はほとんど聞こえない。中西、古賀たちと打ち解けた様子で、ギターを弾くように求められる。」
―このシーン、なかったですよね!(*4)
ほんとは、ちゃんと書いてあるんだけれど、話が分かるように。カット割りもしてあったんだけど、結局、全部無くなりましたね。「絢が裏口から出てきてゴミを出す。古賀と中西が踏切を渡っていく。」とかこの後も色々あったんですけど、映画って不思議なもので、シナリオから離れていくというか。
―元のシナリオからは変わった部分も多いんですね。
基本変えていないんだけれど、さっきみたいにすごく削ったところとか、順番を撮影したあとに入れ替えたところも。あと、伊藤さん(只石博紀)がラップをするシーンありますよね。あれはシナリオにはなくて。(伊藤さんを演じた)只石博紀という人も、映画監督なんですけど、彼がその頃日本語ラップが大好きで、ラップをやってみたいって言いだして。それで、彼が自分で作ったものなんですよね。だから、ちょっと山形君の世界観とは合ってはいない。あそこだけ、異質ではあるんだけれど、僕はいろんなものを取り込んでいきたいと思っていて。いろんな人や、言葉や、姿を取り込んでいきたかったので、入れちゃった、という。こう見えて、けっこう欲張りなんです。
(*4)本編では、中西が車から落とされた後、シナリオにあったシーンはなく、古賀と中西がワインを飲むシーンに切り替わる。
東京郊外って田舎でもないし、かといって都会でもない、非・都市。曖昧な土地というか、境界の土地。
―本作では美術部がいないということですが、撮影場所の部屋なんかも、手を加えずにそのまま使っているんですか?
ほぼそのまま。ロケハンで見つけた家だったんだけど、そこに住んでいた女の子がたまたまこの映画のカメラマンの友達と分かって。それで盛り上がって、「ここでやろう!」となって、さらに出演までしてもらいました(笑)
―「オールの女」ですね。(*5)
小川梨乃さん。現場スタッフもやってくれて、ご飯も作ってくれて、最終的にはポスターのヴィジュアルまで作ってくれました。本当は、和歌山県の熊野でやりたかったんですけど、ちょっとそこまで行くお金がないなあと。それで、東京近場で探していたら…東京も郊外はけっこう田舎なんですよね。撮影した場所は長屋だったんだけれど、農家のおじさんが所有している場所で。あそこは、すごいロングになると(引きで撮ると)、緑が家の前にあると思うんだけれど、あれは畑。場所としてはそういうところなんですね。だから、田舎でもないし、かといって都会でもない、非・都市。曖昧な土地というか、境界の土地というのかな。
―本作にぴったりですね。
偶然なんだけどね。確かに最初から「生と死の境目の話です」って山形君が言っていて。こっちの世界と、あっちの世界の狭間の物語、という話はしてはいたけれど、それを画にするときに具体的に何かがあったわけじゃなくて。だから偶然とはいえ、後々考えると、東京郊外って面白いなって。最終的に山形君が映画のタイトルを変更したのも、このロケーションの影響があったんじゃないかな。
―確かに面白いところですね。田舎とも言えないし…地方の田舎とはまた雰囲気が違いますし。
風光明媚な観光地みたいなところで、裸足の女の子が湖に入っていく、みたいな映画がよくありますよね。そういうのだけはやめたいと最初から思っていたので、川辺に(中西と絢が)たたずむシーンなんかも、なるべくそっちには持っていきたくないっていうイメージはありましたね。そういう、リリカルなものにはしたくないっていう。だから、川が出てきても、対岸を見れば町が見えたり、車走っていたり…。
(*5)本作は、あちらの世界とこちらの世界の境界を描いている。あちらの世界に行けずに川から彷徨い出てくるものたちを追い返すのが古賀(鈴木卓爾)たちの仕事で、この「オールの女」も、この彷徨い出てきものたちである。
「音きっかけ」みたいな。音で何か始まるっていう。
―この作品、登場人物、誰も働いていないじゃないですか。一人、ずっとパソコンをいじっている人はいますけど…彼は仕事をしているんですかね?
分かる?あの設定?
―正直、分からないところは多いです(笑)
パソコンをいじっている彼は、赤堀超太郎くんというミュージシャンで。彼の設定は、ガジェット大好き!なんですね。パソコンで、あそこの世界のおばけ…おばけではないんだけれど、いろいろやってくる何かを、パソコンで検索して調べてる。
―検索しているんですね!(笑)
そう、検索してる(笑)やばいのが来たぞ!って。それぞれ役割があって。古賀さん(鈴木卓爾)がボスで、陽太(宮崎晋太朗)と吉岡(=パソコンの彼、赤堀超太郎)がその仲間。で、みんなで、むこうの世界に行けずに境界の世界を彷徨っているやつらを、むこうの世界に追い返す、その番人っていう。
―番人という設定は伝わってきましたが…まさか検索しているとは…。
あまりアップにして、そこらへんを説明する気もなかったし。でも、彼がいてくれてすごくよかったのは、ずっと(パソコンのキーボードを)カチャカチャカチャっとやっているじゃない?あの音を使えたのが面白くて。実は、編集で音を色々重ねていて。音で遊べたっていうところがあって。
色々自然の音を取り込みたくて…自然って、風の音とか色んな音があると思うけれど、ランプシェードにギターがカチンって当たっちゃうところがあったでしょう?(*6)あれ実はNGで、「カット!」ってかけたところだったんだけど、後で編集しているときに観たら、すごく面白かったので、それをそのまま生かしたりとか。カチンって音が良かった。さっきのパソコン打つ音もそうなんだけれど、「音きっかけ」みたいな。音で何か始まるっていう。考えてみれば、(ランプシェードに)カチンっと当たる音で、歌が始まる。それで、色々あとで理屈付けたのは(笑)、熊野に行った時もそうだったけど、神道でもキリスト教でも、宗教の儀式って、大体鐘とか音から始まる。「これは儀式の始まりじゃないか」って思いながら編集してました。
(*6)近藤さん(佐伯美波)が持ち上げたギターのネックが、ランプシェードに当たってしまうシーンがある。この後、劇中歌が歌われるシーンへ移る。
あの特報はけっこう評判が良くて、本編よりも褒められて(笑)
―さっきお話した、劇中歌のシーンがこの作品のなかで一番好きなシーンです。初めて本作の特報を観た時に、このシーンが入っていて。
特報のほうが好きって言ってたでしょう?(笑)
―よくご存じで(笑)私は、その後に出た予告編より、特報が好きですね。
色んな人にそう言われて。あの特報はけっこう評判が良くて、本編よりも褒められて(笑)、本編より面白いなんて言われて。
―あれが劇場で流れた時、「これは観たい!」と確信して…。自分の好きなシーンが全てあそこにきゅっと入っているんですよね。
僕がやりたかったことを特報には詰め込んだ感じなんですよ。アクション、アクション、アクション、っていう。スケボーで来る、ジャンプする、みたいな。あの1分にきゅっと詰め込みましたね。
(↓特報)
―特報でもそうですけど、基本中西(田中淳一郎)って動いてますよね。走って、跳んで、自転車乗って…。それを見ているのが楽しくて。
シナリオの時点では、ニュートラルな、感情をあまり表さないような人だったんですよね。まあ、設定的にも中西って「受け」じゃないですか。向こうから来るのを、みんなが何かやっているのを見てるっていう。最終的に古賀のお手伝いもするようになるけれど、そんなに積極的な存在でもなく。設定的には、ほんと、受けのタイプだったんですよ。
(中西役の)田中淳一郎君については、脚本の山形君と田中君が昔からミュージシャン仲間で。僕も、田中君は田中君で観に行っていて、パフォーマンスのときの動きが挙動不審で面白くて、でもまさかあそこまで動ける人とは思ってなかったけど(笑)「彼でいつか映画を作りたい!」ってずーっと思っていたんですよ。でも、全然、山形君と脚本の話を進めていたこととは別で進めていたんだけれど、本格的に動き始めたときに、「淳くん出てよ」って出てもらうことになり、2つの流れが合流した感じです。
―(田中さんが演じた)中西が大好きなので、田中さんがこの役になって良かったです!なんというか、すごくキュートで。人の顔をちらっと見る時とか、可愛らしいんですよね。
じゃあ、スターにしてあげてよ!(笑)
インタビュー前編はここまで。後編は上映初日の6/3(土)に更新予定です。
後編も、お楽しみに!(まな)
■『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』作品情報(→作品公式サイト)
バンドのツアー中に見知らぬ町で取り残された中西(田中淳一郎)は、町のボスのような存在である古賀(鈴木卓爾)に目をかけられ仕事を手伝うようになる。町の住民たちは酒を飲み交わし、外れにある川からさまよい出てくるものたちを追い返す。川にまつわる特別な力をマネージメントすることが彼らの仕事だった。古賀の店で働く絢(柴田千紘)に惹かれながら、次第に中西はこの町と自分に深い繋がりがあることに気付き始める……。
■Profile 黒川幸則監督
1970年、三重県出身。チャップリンが好きで8ミリ映画を撮り始める。早大シネマ研究会に所属、滝田ゆう原作『ラララの恋人』を撮る。卒業後、鎮西尚一、常本拓招、山岡隆資ほか多数の監督の現場につく。1997年『淫乱生保の女』で監督デビュー。その後、本名と今西守名義でピンク映画の脚本を多数手がける。助監督も続け、TV『七瀬ふたたび』(七里圭監督)、『鎖縛』(カジノ監督)、『亡国のイージス』(阪本順治監督)、『ミンヨン倍音の法則』(佐々木昭一郎監督)などにつく。監督作は他に『火照る姉妹』『夜のタイ語教室』『ある歯科医の異常な愛』がある。
■公開情報
関西にて、6/3(土)~6/9(金)一週間限定上映!
【京都】立誠シネマプロジェクト 連日18:10~上映
★6/4(日)トーク
ゲスト:細馬宏通さん(滋賀県立大学人間文化学部教授/バンド「かえる目」vo.)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)、山形育弘さん(脚本)
★6/5(月)トーク
ゲスト:福永信さん(小説家)
黒川幸則監督、山形育弘さん(脚本)
★6/6(火)トーク
ゲスト:三浦基さん(演出家、劇団「地点」代表)
黒川幸則監督、鈴木卓爾さん(出演)
【大阪】第七藝術劇場 連日16:20~上映
★6/3(土)舞台挨拶&ミニライブ
ライブゲスト:江崎將史さん(音楽家)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)
★6/4(日)舞台挨拶
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)、山形育弘さん(脚本)
【神戸】元町映画館 連日19:10~上映
★6/3(土)舞台挨拶&ミニライブ
ライブゲスト:江崎將史さん(音楽家)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)
★6/7(水)トーク
黒川幸則監督、映画チア部(まな)
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