これは現実なのか夢なのか―『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』黒川幸則監督インタビュー(後編)

『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』黒川幸則監督インタビュー後編。(前編はこちらから→)どこか現実離れした「夢」のような本作。けれど、監督にはそんなつもりはなかった!?前編に引き続き、本作についてお話を伺いました。


「夢のような作品にしよう」と思っていた訳ではないんですよ


―この映画、台詞も特徴的ですよね。「この町では冷めたピッツァがリーサル・ウェポンだ」とか「ダンプカーにキスされたかと思った」とか、すごくクセになる台詞で溢れていますが、意味を考えてしまうと、よく分からなくなるというか。

僕も、よく理解してやっていたわけではないんです。山形君(山形育弘、脚本)は南米文学も読む人で。僕は、ぽつぽつとしか読んでいないんだけれど、撮影前に「あれ読んだ、これ読んだ」みたいな話をしましたね。南米文学は、よくマジックリアリズム、魔術的リアリズムだと言われます。現実のなかに立っているんだけれど、本人も気付かないうちに、いつの間にか異界に足を踏み入れてしまっている。その影響は(本作にも)あると思います。本作にコメントを寄せてくださった古谷利裕さんも、南米文学の本を教えて下さったりして…。

―古谷さんは、コメントで本作を「『夢』のような映画」と表していましたね(*1)。

最初に古谷さんのコメントを読んだときは、「『夢』のような」と書いてあってびっくりしました。画としては、現実の世界のものとして撮っていたので。同じくコメントを寄せてくださった田村千穂さんも、やっぱりこの作品もことを「夢」だと言ってくれて。(*2)こんなに現実的なものを、みんな「夢」だと思うんだって驚きましたね。

―私も、現実と地続きではあるけれど、現実離れしている「浮遊感」みたいなものが本作にはあるなあ、と思いながら観ていました。

面白いですよね。作り手って、目の前にあるカメラで捉えた現実しか見てないので。この映画を作っているとき、「夢のような作品にしよう」と思っていた訳ではないんですよ。それで、(作品ができあがって)「ああ、変な現実世界ができてしまった、みんなどう思うんだろう」と思っていたら、色んな方がこの映画を「夢」だと言ってくれて。意外でもあり、「そうかなあ」っていまだに思う。でも、そう言ってくれたおかげで、この映画にを観に来てくれる人へのとっかかりができることもあるし、よかったなあと思っています。

―現実世界と離れているけれど、離れすぎていない。私たちと全く無関係なファンタジーやフィクションの世界ではなくて、私たちの生きている世界と繋がっている、そんな実感もありました。

シナリオがあって、役者さんがそろってきて…目の前にある現実だけが僕にとっての素材なので。役者さんの芝居であったり、その周りの風景だったり、その時に聞こえてくる虫の声や、音であったり。それがすべて映画の作り手にとっては素材じゃないですか。それを、もっと大げさに加工して、ハリウッドとかであればCGですごい加工をするわけじゃないですか。でもこの映画は、加工して作るファンタジーの世界ではない。「夢」と言われて驚いたものの、映画って基本的にすべてフィクションだと思うんですよ。ドキュメンタリーですら、映画になった時は、フィクショナリーなものだと思うんですね。なので、結果的に現実の素材を使ったファンタジーとしてみなさんが「夢」のようだと感じながら観てくれたなら、成功というか、これでよかったんだなと思っています。


(*1)古谷利裕さん(画家・評論家)のコメント:とても幸福な夢を見て目覚めた後に、残り香のなかで、あまりに甘い夢を見てしまったことの気恥ずかしさと、現実ではそのような幸福が自分に訪れることは決してないだろうという苦さを噛みしめる、そんな「夢」のような映画。しかし現実とは何か。私は間違いなく夢の遊戯に参加した。目覚めるまでは夢こそ現実であり、だからその幸福は私の経験なのだ。私ではない人によって演じられ、私ではない人によって作られた夢だとしても。
(*2)田村千穂さん(『マリリン・モンローと原節子』著者)は、対談にて本作を「夢」であると表現した古谷さんのコメントに同意している。
▼ 映画『VILLAGE ON THE VILLAGE』 田村千穂さん×伊藤洋司さん+黒川幸則監督 対談→
田村千穂さんのコメントは次の通り:『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』。何度でも口に出して繰り返さずにはいられない最強の映画が届いた。『岸辺の旅』とこんなに近い時期に、最新の、完璧で、「絶妙な」幽霊がここでこんなふうに撮られていたとは! 恐ろしい。でも笑いがこみあげてくる。幸福な映画。緑の宝石のような映画。常温の夏の映画。優しくもなく、冷たくもない人物たちが昼からビールを飲む映画。顔がほころんでくる。画面から一瞬たりとも目が離せないのに。


実は、撮影している間は音楽のことを全く考えていなかったんですよ


―劇中歌以外の音楽や、タイトルバックの電子音のような独特の音も、音楽を担当した「のっぽのグーニー」(*3)が作られたんですか?

すべて「のっぽのグーニー」が作ってくれました。小さい電子音のようなあの音は、現場でとった虫の声とかを田中君が加工して作っています。「ドドドド」というような音も、現場で流れている川の音を使ったり。現場で撮った自然音を加工して作ってあります。田中くんは、映画音楽もいろいろやっていて。『いたくてもいたくても』(*4)では主題歌も歌っています。あと、『大和(カルフォルニア)』(*5)とか。

(↓話題になっているさまざまな「音」は予告編でも一部聞くことができます)

実は、撮影している間は音楽のことを全く考えていなかったんですよ。全部いらないんじゃないか、映像だけでいいんじゃないかって言われるくらい。けど、パソコンで編集していたら、おもしろくて。色々音を乗せ換えたり。右と左の音を交互に出してみたり。会話しているところも、同じように左右から交互に音を出してみたり。会話に関しては、カットが切り替わった時に、どっちから音を出したらいいのか迷ったりもしたけど(笑)

―色んなところから音が飛んでくるのがおもしろかったです!本作は音もそうですけど、本当に色々自由な作品ですよね。

最初は、もうちょっと普通の映画作りたいと思っていたんですけどね(笑)ラブコメ設定だったときは(*6)、主人公の中西くんがサラリーマンで。休暇に海辺に別荘を持っている先輩の家に遊びに行く、っていう設定でした。その先輩が古賀さんで。そこに、近所に住んでいる仲間たちが遊びに来て、お酒をのんでわいわいしている、という。

[古賀(鈴木卓爾)の家に集まって飲む中西(田中淳一郎)と絢(柴田千紘)]

―そこは似ていますね。

で、そこで絢が出てきて、中西といい感じになって。という。そうしていたら、どんな映画になっていたんでしょうね。最初から、こういう映画にしたい!と思って撮ったわけではない。色んな条件が積み重なって、この映画ができました。僕の先輩の鎮西尚一監督は、助監督の意見もすごくよく聞く人で。シナリオができてくると、「つまらないから、ここからここまで直してきてくれ」って言われたり。僕も鎮西監督の作品で、ラストシーンを直したことがあります(笑)規模の大きい映画は、助監督は意見をあまり言えないことが多くて。規模が大きくなればなるほど、映画ってプロデューサーと脚本家と監督でつくるものになっていくので。本作では、助監督の意見も色々取り入れています。画質が他と少し違うシーンがあるんですけど、そこは、助監督やカメラマンがスマホで撮った映像を投入しています。そういうこともしていました。

―最近もありましたよね、全編スマホの…

『タンジェリン』(*7)ですね。面白かった!『タンジェリン』はスマホだけど、撮影風景の写真とかをみると、機材を色々使ってちゃんと撮っていますね。スマホで撮っているとはいっても、全然遜色のないものを撮っている。

―誰でも簡単に映画を撮れる時代になりましたよね。

本当にそういう時代ですよね。今回録音を担当してくれた青石太郎君も、自主映画の監督なんですけど、新作を全編スマホで撮っていて。自分が主役で、長さは4時間、という、スマホ自主映画。

―4時間!

そんなこともできる時代ですね。『自由』という映画です。(*8)

今回は、色々映画のなかで遊ぶことができましたね、作っているときは劇場で上映されるかも分からない状態でしたし。自主映画なので。


(*3)本作の主人公・中西を演じた田中淳一郎さんは「ju sei」や「のっぽのグーニー」名義で活動するミュージシャン。本作では、主演だけでなく音楽も担当しています。
(*4)『いたくてもいたくても』(2016):文化庁若手作家育成プロジェクト「ndjc」で作製した短編『はなくじらちち』などで注目される堀江貴大監督の初長編作品。関西では、京都・立誠シネマや大阪・シアターセブンで上映された。
(*5)『大和(カルフォルニア)』(2016):米軍基地と共に発展してきた神奈川県大和市を舞台に、ヒップホップを通じて、一人の少女が“語るべき言葉”を獲得していく物語。韓英恵がヒロインを演じ、大阪アジアン映画祭などで上映されている。
(*6)本作は、シナリオ段階でははじめラブコメであった。詳しくはインタビュー前編→
(*7)『タンジェリン』(2017):L.A.で暮らすトランスジェンダーの日常を描く。iPhone5sにアナモレンズを装着して、全編スマホで撮影されている。京都シネマで近日上映。
(*8)『自由』については青石さんのHPに詳しい。続報を待て!→


次回作について


―次回作の予定は…?

今、みんなで作戦会議をしています。そろそろ何かできないかな、と。まな(映画チア部、インタビュアー)さんも是非アイデアがあれば、少し書いてくれれば。『就活戦線異状あり』みたいな!(*9)

―『異常あり』なんですね(笑)『なし』でいきたいところです!

(*9)インタビュー当時、まなは就活中でした。


『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』の上映は、各劇場とも6/9(金)まで!お見逃しなく!

■『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』作品情報(→作品公式サイト

バンドのツアー中に見知らぬ町で取り残された中西(田中淳一郎)は、町のボスのような存在である古賀(鈴木卓爾)に目をかけられ仕事を手伝うようになる。町の住民たちは酒を飲み交わし、外れにある川からさまよい出てくるものたちを追い返す。川にまつわる特別な力をマネージメントすることが彼らの仕事だった。古賀の店で働く絢(柴田千紘)に惹かれながら、次第に中西はこの町と自分に深い繋がりがあることに気付き始める……。

■Profile 黒川幸則監督

1970年、三重県出身。チャップリンが好きで8ミリ映画を撮り始める。早大シネマ研究会に所属、滝田ゆう原作『ラララの恋人』を撮る。卒業後、鎮西尚一、常本拓招、山岡隆資ほか多数の監督の現場につく。1997年『淫乱生保の女』で監督デビュー。その後、本名と今西守名義でピンク映画の脚本を多数手がける。助監督も続け、TV『七瀬ふたたび』(七里圭監督)、『鎖縛』(カジノ監督)、『亡国のイージス』(阪本順治監督)、『ミンヨン倍音の法則』(佐々木昭一郎監督)などにつく。監督作は他に『火照る姉妹』『夜のタイ語教室』『ある歯科医の異常な愛』がある。


■公開情報

関西にて、6/3(土)~6/9(金)一週間限定上映!

【京都】立誠シネマプロジェクト 連日18:10~上映

★6/4(日)トーク
ゲスト:細馬宏通さん(滋賀県立大学人間文化学部教授/バンド「かえる目」vo.)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)、山形育弘さん(脚本)
★6/5(月)トーク
ゲスト:福永信さん(小説家)
黒川幸則監督、山形育弘さん(脚本)
★6/6(火)トーク
ゲスト:三浦基さん(演出家、劇団「地点」代表)
黒川幸則監督、鈴木卓爾さん(出演)

【大阪】第七藝術劇場 連日16:20~上映

★6/3(土)舞台挨拶&ミニライブ
ライブゲスト:江崎將史さん(音楽家)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)
★6/4(日)舞台挨拶
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)、山形育弘さん(脚本

【神戸】元町映画館 連日19:10~上映

★6/3(土)舞台挨拶&ミニライブ
ライブゲスト:江崎將史さん(音楽家)
黒川幸則監督、田中淳一郎さん(出演)、佐伯美波さん(出演)
★6/7(水)トーク
黒川幸則監督、映画チア部(まな)