人と人は分かり合えないのか『さよならも出来ない』松野泉監督、野里佳忍さん、土手理恵子さん、上野伸弥さんインタビュー!

6月24日(土)から立誠シネマでの上映がスタートする、映画『さよならも出来ない』。8月には第七芸術劇場(大阪)、9月ケイズシネマ(東京)、さらに元町映画館(神戸)での上映も決まっています。

今回は監督の松野泉さん、そしてキャストの野里佳忍さん(香里役)、土手理恵子さん(環役)、上野伸弥さん(浩役)4人にインタビューをさせていただきました。

右から松野監督、上野さん、土手さん、野里さん

──『さよならも出来ない』が制作に至った過程を教えてください。

(監督)まず、京都に立誠シネマプロジェクトという映画館があるのですが、そこでシマフィルムと映画24区という会社が協力して、シネマカレッジ京都というワークショップをやっています。宣伝や配給など映画に関わる様々なワークショップがある中で、俳優という分野もあり、僕はそこで講師として携わってきました。

今回のワークショップの最終目標が映画を1本作るというものでした。本作『さよならも出来ない』のチームは、2014年の夏頃にそのワークショップを通して出会い、今回制作に至りました。

本作では「別れた男女(香里と環)が三年間同棲している」という少し奇妙な二人の関係が続いている。

──では、映画のストーリーもワークショップを通して作られたのですか?

(監督)出演者は皆ワークショップの参加者で、その人達をいかに魅力的に撮るかということを考えました。実際、ワークショップでは有名なシナリオを使って演技のレッスンをするのではなく、お互い延々と自己紹介し続けたりとかもあって(笑)。一対一でお話するような内容が多かったです。それによって、人と人とのコミュニケーションについて一緒に考えるようになりました。その成果として、「人と人が向き合うこと」についての内容にしたいと考え、このようなストーリーになりました。

実は元々の出発点は、土手さんが男友達とシェアハウスをしていたという話を聞いた事です。土手さんの話はすごく爽やかでしたが、僕はもっとドロドロしたものが良く…(笑)。その経験談も参考にしながら、さまざまな要素を詰めていきました。

上の画像のように、映画の中で香里と環は、家の中に境界線を作り、お互いのスペースを越えないように暮らしている。もちろん、土手さんが実際にルームシェアをしていた時に境界線はなかったようです。

──映画の中の境界線の色がそのままポスターに使われたりしていますよね。黄色と緑には何か意味があるんですか?

(監督)美術さんと話し合う中でこの色になりました。青と赤だといやらしすぎるし。実際に映画の中でも主人公の香里が点字ブロックを飛び越えたりだとか、そういうところにも繋がっていますね。

──皆さんにとって、そんな香里と環の関係は理想的ですか?

(一同爆笑)

(野里さん)どうなんでしょう・・・

(土手さん)嫌ですよ!!(笑)

──でも、別れてから3年も一緒に暮らすのは…長いですよね。香里と環が別れた理由は結婚に関して揉めたからなのでしょうか。

(監督)まあそれもあるかもしれないですね。そこについて僕たちは特に話し合わなかったんですけど、あんな形になってしまったのは、きっと別れ際に二人がちゃんと向き合って話し合わなかったからだと思うんです。結婚の話が出たときに、香里が曖昧に返事をしたっていう理由もあったり。要はお互いちゃんと向き合えなかったということですね。

──向き合えていない二人の間に入ってくる伯父や叔母、そして姉。近すぎず遠すぎない関係の人たちが揃って干渉してきますよね。

(監督)その方が言いやすいかなと思って。叔母については、はっきりさせてほしいという見ている側の気持ちを代弁させています。また、香里が両親とうまくいっていて、親しい友人もいるというイメージはなくって。姉の登場に関しては、僕の周りにも姉と同居している人が結構居て。姉との距離感の近さみたいな、その不思議さや違和感を表現しています。

──確かに香里は友達が多いようには見えなかったですね(笑)。家族との仲の方が強そうですよね。

(監督)香里は多分、両親からも変な子扱いされてきたと思うんです。そんな中で姉との距離が近くて周りから見るとシスコンなんですけど、本人はきっと何も考えてないですよね。

──本作ではそれぞれ違う敬語同士の関係が特徴的で、みなさんの敬語での話し方が印象に残りました。意識はされましたか?

(野里さん)特に芝居する上で意識はしなかったですが、ワークショップでは感情を抑えて本読みをするというのをしていたので、そういった積み重ねがあったからこそだと思います。「笑う犬」という番組を知っていますか?その中のコントにわざとらしく芝居をするのがあるのですが、それとは逆のような感じで…あ、すみません今のは無かったことに(笑)。

(土手さん)カットですね(笑) 。

──そんな香里に近づいてくる女性の影がありました。あの女性は色んな男の子に手を出している雰囲気がありましたが(笑)。

(監督)たぶんそうでしょうね。でも計算しているわけでもなく、自然なんだろうなって。男からはそういう風に見えますね。面白いことに映画祭で上映した後、お客さんと話していると、男性陣はあの女の子に対して割と肯定的なんです(笑)。

(土手さん)絶対計算してますよ!(笑)。

──そんな女性に対して、気持ちは傾いてしまうものですか?香里は惹かれていたのでしょうか?

(野里さん)いや、僕は…って僕じゃないんですけど(笑)。そんなに気持ちは無かったはずです…(笑)。

──草食系っぽい香里に対して、上野さん演じる同僚の浩は環に本気でアプローチしていましたね。

(上野)そうですね。

(監督)あの迫り方は怖いという感想が多かったですね。

──上野さんと土手さんのレストランのシーンでは、二人がカメラ目線でかなりアップで撮られていて緊張感がありました。

(監督)色んな作品に携わりながら、俳優さんがカメラの前に立つことは、本当は怖いことだということを前々から思っていました。この映画を撮る前に、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』という映画に携わっていました。その際濱口さんは、あえて俳優さんにカメラの存在を意識させながら演技してもらうという撮り方をされていて。カメラと真正面からちゃんと向き合うことによって、演技への怖さを乗り越えられると思うのです。

──実際、カメラと向き合って演技をしてみてどうでしたか?

(土手さん)そこまで怖さは無かったです。カメラの圧迫感はありましたけど、ずっとワークショップで一緒だった上野さんとだったので、乗り越えられました。

(上野さん)僕もカメラ自体はそんなに気にならなかったです。その向こうに相手がいることを意識して演技しました。

(野里さん)そのシーンの撮影は正面に立っていたんですか?

(上野さん)お互い撮っている時は横にいました。横で台詞を言っていました。

──演じた役柄の性格で理解できなかった部分はありましたか?

(土手さん)私はあまり無かったですね。わりと自分に近い性格だったと思います。

(野里さん)演じていて特に意識していなかったんで、僕も近いところがあったんだと思います。

(監督)あの性格と近いって相当ヤバいと思うんだけど(笑) 。

(土手さん)もう誰も寄ってこないかも(笑) 。

──確かに。今日野里さんとお会いして、喋り方とか香里に近い感じはしました(笑) 。

──ぽつぽつした話し方と音楽が絶妙に合っていて心地よかったです。

(監督)音楽はサックス奏者の光永さんという方にお願いしました。普段から少しとぼけた感じの音楽を作られている方で・・・。劇中の隙間に、違和感なく乗せてもらえるような音楽がいいなと思っていたら、見事にマッチした音楽を作ってくださいました。台詞の上に音楽を乗せることは今までしてこなかったのですが、この音楽なら合うと思って初めて乗せてみました。

後編に続きます。お楽しみに!(ウネ)


『さよならも出来ない』ストーリー

香里と環は別れてから3年も同棲生活を続けている。友人や周りの人間からは関係をはっきりさせた方が良いと言われるが、家の中に境界線を引き、ルールを設け、恋人、友人でもない生活は続いている。そんなある日、環は会社の同僚の浩に食事に誘われ、香里も同僚の紀美から思わせぶりな態度を示される。さらに環の叔母夫婦が二人の状況を探りに来る。二人はなぜ離れられないのか、別れるとはどういう事なのか。決断の時が訪れた。(公式サイトより)

『さよならも出来ない』公式サイト|http://good-bye.cinemacollege-kyoto.com/