vol.1 元町映画館 支配人 林未来さん(前編)
「映画人の話を聞こう。」
映画チア部のメンバーが、映画業界で働く大人にインタビュー。
仕事内容だけでなく、仕事に対する想いやこれまでの道のりなど、
その人自身について深く掘り下げてお話を伺います。
初回にお話を伺ったのは、私たち映画チア部が拠点を置く元町映画館の支配人、林未来さんです。
好きなことを仕事にすると本当にそれだけで良くなっちゃう
——元町映画館で働くことになったきっかけはなんですか?
わたし大学を出て、映画館で映写の仕事をしてたんだけど、大阪でね。何年働いたか忘れたんだけど(笑)、まあ四年か五年ぐらい働いてたんだけど、兄が倒れて一旦ちょっと仕事を辞めて実家に戻ったんですよ。兄が脳出血で倒れたもんで、しかも兄の結婚式の2週間前ぐらいに倒れて、まあまあ大変で。死ぬかも分からなかったから、母も私もいったん仕事を辞めて実家に戻って。で、まあ一応死ななくてですね。今は子供も高校生になったぐらいで普通に暮らしてるけど。とりあえずちょっと実家からあんまり遠くに行かない仕事を探して、地域情報誌の編集部で働き始めたのね。
で、色々はしょるけど(笑)、その仕事をしつつ、いつか映画館に戻りたいなとは思ってて。でも何だかんだで30も超えたし、あんまり募集がなくて。映画館でもっかい働ける機会がなくて。当時は西宮にTOHOシネマズもできてなくて、西宮は震災後、映画館が無くなってて。自分もあんまり実家から離れられないっていう事情もあって、「近くで映画が観られたらいいのに」と思ってたのね。それで自分で上映会をやり始めたんです。知り合いのカフェとかカレー屋さんとか、ギャラリーとか、インテリアショップとかそういうお店と一緒に上映会をやり始めて。
そんなことをしてる時に新聞で、元町映画館っていう新しい映画館を神戸に作ろうとしている人たちがいるっていう記事をね、(元町映画館オーナーの)堀さんと、(スタッフの)藤島さんと、あと出資をしたメンバーとの会議の写真みたいなのがあって。今から映画館を作ろうとしている人たちがいるっていう記事が載ってたのね。
それを見て、もうその時だいぶミニシアターは無くなってたし、一から映画館を作るっていうことに関われる機会なんてもう一生無いかもしれへんなと思って。とりあえず電話して、「ボランティアでいいからとにかく何か手伝わせてください!」って言って。それで藤島さんにじゃあ一回会おうかって言われて会って話をして。その時に私がもともと映写の仕事をやってたって話になって。「そしたら一緒にやらへん?」って言ってくれて「じゃあそしたら私仕事辞めます!」って(笑)で、映画館に作り変えるための工事をする段階から元町映画館のメンバーになりました。
——大阪で映写のお仕事をされる前に就職活動はされなかったんですか?
そうですね、学生さんの前で言うのもなんですけど、わたし就職活動をしたことがなくてですね(笑) 大学の2回か3回生の時に梅田の映画館というより上映スペースみたいなところで週末だけ上映をやってたんだけど。それでわたし週末だけボランティアというかお手伝いに行ってて。
そこで映写を教えてもらったのね。映画祭の映写とか、その時はまだちょろっとあった学校上映の映写とかに行ったりしてて。大学卒業後に、いったん就職というか、就活はしなかったんだけど普通に求人誌で見つけた仕事を3か月ぐらいしていて。そこで働いている間に夏に大阪に新しい映画館がオープンするから映写出来るやつ探してるけどお前行く?って声かけてもらって「あ、行く行く!」って(笑)
——就活をしていないことに対して不安はなかったんですか?
(小さな声で)全然無かった。普通に小中高ときて大学も行ったけどそういう常識にちょっと疎いというか。ちょっと外れていて。何だろうなあ・・・。まあ将来のこととか考えるタイプじゃなかったんだと思うんだけど。友だちが遊んでくれなくなったぐらいかな、就活で。なんか就職する目的がないから。
今の自分で出来る限り映画のそばにいるぐらいしか選択肢がないというか。それがたとえボランティアであれ、アルバイトであれ。まあ親とは揉めたけどね。「え、まじどうすんの?」みたいな。普通に「え、ほんまに考えてんの?」って。そのまま実家に寄生されても困るだろうし。どう思ってんの?みたいなことは言われてた気がします。
——逆に、今までずっと映画に関わってこられたと思うんですけど、映画関連以外の趣味とかってあるんですか?
本かなあ。読書。小説が昔から好きで。漫画もめちゃめちゃ読むけど。本屋とスーパーぐらいにしか行かないんで今は。でも本は映画に出会う前、子供のころからずっと好きで。大学の時に映画に出会って映画がプラスされて。それは生活とまた違う趣味っていうか。その一つが仕事になってしまうとそれが生活、なんだよね。
だから今あんまり映画が趣味って言えないっていうか。でもまあ映画のことしか考えてなくても誰にも怒られへんからまあそれは幸せなことではあるんだけれど。でももうちょっと映画の仕事してない時は生活があって映画の趣味があって本も読んでて、っていう時はもうちょっと生活を大事にしてたような気はするんだよね。いまは元映に来る前に比べたら本当に生活がおろそかになってる(笑)
——ご飯とかは・・・
ご飯は、わたし高校の時とかは家の晩御飯当番だったんだよね、母が仕事で帰りが遅かったから。だからずっと料理はしてたから、料理をするのは全然苦じゃないしめんどくさいとは思わないから今でも普通にやるんだけど。でも今日はコンビニでいいかっていうことは増えたよね。あとは何だろな・・・例えば部屋を好きなインテリアにするとか。もともとそういう嗜好は薄いんだけど。何か友だちと遊ぶ、とか、デートする、とか、ご飯食べに行く、とかお買い物に行くとか。あとは例えば季節ごとの行事とかをきちんとする、とかそういうことが全て無くなりました(笑)
すごく生活に手をかけなくなっちゃったのはいいんだか悪いんだかう~ん。ってところではあるよね。ここに来る前までは友だちと遊んだりすることもあったし、友達のカフェとかに遊びに行ったりすることもあったし。もうちょっとそういうことをしてた気はするんやけど。まあまあちょっと人付き合いというかお付き合いがめんどくさいタイプなので。
でも好きなこと仕事にすると本当にそれだけで良くなっちゃう部分はあると思うんだよね。オフの部分を楽しもうとするんだろうけど、今はあんまり・・・(元映で働き始めた)最初の2年間のこともあったからオンオフの切り替えがなく。で、仕事が映画なもんだからそこでもう楽しいわけですよ。いくらつらいことや大変なことがあってもまあ楽しいわけですよ。そしたらもうなんか線引きが無くなってしまって、オフが無いことへの不満がないっていうか。幸せなんだと思うよ。
それでもやっぱり・・・「ちょっとそれは嫌だな」って思う人もいると思うんだよね。それはどっちが映画好きかとかそういう問題じゃなくって。まあ、その幸せと思えるかどうかはその人次第だよね。わたしはまあまあ幸せのハードルが低いんでとりあえずなんでも幸せですけど。いいでしょ。幸せは自分でなるもんだよ!だから今の状況を、事情を知ってる人も知らない人もみんなすごい大変やな、そんな時間働いて、まあこんな安い給料で、休みもあんま無く、遊びにも行ってへん。ほんま可哀想みたいな人ももちろんいるけど、何とも思ってないです。
——映画館で働いている人は「映画」っていうエンタメを提供する側の方たちですけど、そういう方たちは林さんのようにオン・オフの切り替えがなくて「今が楽しい」っていう人が多いんでしょうか?
それなりにちゃんとオフは作ってると思うけどね。人によるとは思う。わたしと同じくオフをあまり必要としてないような人もいるし、結婚して子供もいて、仕事は仕事と捉えていて、それとは別にプライベートの時間を大事にしているような人もいると思うよ。スタンスだよね。
だからそのスタンスが自分と合わない働き方になってしまうと苦しくなるんだと思う。例えば(上記のようなプライベートの時間も大切にしている人が)うちに来て今の私がやってるみたいな感じにさせられたらとてもストレスだろうし。わたしはわたしでういう働き方をさせられたら今より仕事はつまんなくなるだろうなとは思う。その分自由時間は増えるだろうけど。増えたところで・・・まあ本読んでるかな。もしくは(映画の)サンプルを観るんだよね。そしたらもうそれは仕事の時間なんだよね(笑)だからその線引きがもうちょっと上手にならんといかんとは思う。じゃないとそんな生活続けてたらわたしいつかはシニアとかになっちゃうよね(笑)?
——そこまで映画をのめり込むように好きになったきっかけはなんですか?
何だろうね・・・。でも、例えばうちの常連さんとか藤島さんとかに比べるとそこまで映画好きじゃないと思うんだよね、わたし。いわゆるシネフィル(映画通という意味の造語)ではない、と思います。
ただ、わたしはけっこう仕事が好きなんだと思う。だから映画を観て、自分の楽しみとして観て「めっちゃ良かったー!」とか思うこともしょっちゅうあるけど、それを例えばこう伝えたらグッとくる人がいるかもしんないとか、こういう要素を取り出してイベントが出来そうだとか。そういうのをかんがえるのが多分好きなんで。映画が好きなのはもちろん好きなんだけど、映画を観るのが好きというよりも仕事としての映画が好きなんだと思う。それが本とかになっても同じだとは思うんだけど。だからわたしは仕事がすごい好きなんだと思うな。
趣味の本はめちゃくちゃ読むんですけど、小説しか読まないんですよ。映画の本とかも持ってるけどまあほぼ読まない。持っときたいだけ。でも全然読まない。物語がないと読めないんだわたし。読まない。作られたお話以外に本当に興味が無くてわたし。だからここに来るまでドキュメンタリーもほとんど観なかったし。現実世界にあんまり興味がないんだよね。子供のころからそうで。ずっとお話が好きで、本を読んで漫画を読んで。大学に入ってその一つとして映画が加わった感じ。なんかほんとにね、自分は現実に生きてるはずなんだけどなかなかどうしてあんまりこの現実世界に興味が湧かなくて・・・。
それは何でかと言われたらほんと分からないけど。映画とかお話とかって違う世界に扉を開けるみたいな表現がよくされるけど、どっちかっていうとわたしは現実の扉を閉める装置、っていう感じなんだよね。でもこれね、パクリなの。わたしの一番好きな作家が吉田篤弘っていう人なんだけど、その人とイラストレーターのフジモトマサルっていう人(という、はなし)が一緒に作った本があって。
なんか、小説というよりもうちょっと絵本に近いような本で、そこで現実の扉を閉めるみたいな言葉があって、「これや!」って思って。それから使ってます。違う扉を開けるっていうのも何かしっくりこないなと思ってて。ずっと本を読んできたし、例えば地域情報誌の仕事で取材して記事にするっていう、割と言葉に関わってきたから、これって何だろう?とかこの気持ちはどういうことだろうとかっていうのを言葉に変換する練習をずっとしていて。それで何かいつもしっくり来ないなと思ってたんだけどこれを読んでこれや!って。
——だから住んでるのは現実世界だけど見てるのはずっと物語の世界。顔だけ常に物語の方を向いているというか。体だけ現実世界だけど。それで小説とか映画に触れる時だけ(現実世界の扉を)ガン!って閉めるみたいな。
そういうことなのかもしれないね。
楽しんでいただけましたでしょうか!
次回の後編では、お仕事が始まり、働いていくうちに感じたことなどを教えていただきました!お楽しみに!!
(まゆ)
■PROFILE
元町映画館 支配人 林 未来さん
大学卒業後、大阪の映画館で映写技師として働く。その後地域情報誌の編集部での勤務を経て、設立初期から元町映画館に関わる。2013年に2代目支配人に就任。
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