vol.1 元町映画館 支配人 林未来さん(後編)

「映画人の話を聞こう。」

映画チア部のメンバーが、映画業界で働く大人にインタビュー。

仕事内容だけでなく、仕事に対する想いやこれまでの道のりなど、

その人自身について深く掘り下げてお話を伺います。


仕事は一生懸命にやらないと面白くない。


——今まで元町映画館で仕事してきた中で一番良かったことはなんですか?

 そりゃ例えばすごく好きな映画を上映できたとか、ずっと大好きな映画監督に会えたとか、そういうことはあるんだけど。それなのか?って気はするよね。なんか・・・例えば、毎日映画が上映されている場所にいるっていうことがまあ言うなれば最上の喜びであるわけですよ。
 でもそれって万人に伝わるのかって(笑)絶対分かんないよね。わたし最初に映画が好きになるきっかけが8mmカメラで「撮る」っていうところから入ったんですよ。全然映画観てない時から。そっから観ることにハマって、映写を教えてもらって今度は映写することにハマって。就活はしてなかったけど、大学も終わりに近づけばこの先どうしようとは多少は思うじゃん?映画は続けたいから、そしたら映画は「制作」「配給」「興行」っていう3つのジャンルがあって、そのうちのどれかを選ぶ、それに付随するライターさんとかっていう道もあるけどね。選ぶってなった時に、わたしは「撮る」よりも「観る」よりも一番ハマったのが映写だったの。フィルムと機械を動かすっていうのもたぶん性に合ってたし、後ろから客電(劇場などにおける客席の照明)が落ちてそこに映写の光をスクリーンに当てるっていうのがすごい好きで毎回ドキドキしたし。


 だからわたしは配給とか制作じゃなくって興行の場にいたいと思って。今でもわたしは映写の仕事を一番愛しているんですが、まあ今はしない立場になっちゃったので。わたしが支配人に変わった年の秋に、2013年の秋に支配人になったんだけど、その年の冬にもうデジタル化して、ほぼフィルム上映をする機会がなくなっちゃったから、タイミングとしては良かったんだけど、わたしはフィルム時代の映写技師なんで。わたしにとっての映画館って映写室からの風景だったりするんだよね。そこにずっといたいからこの仕事を選んだみたいなところはあって。自分にとっては穴蔵のような、客席の後ろにある映写室にずっといられるってことが一番だったんだけど。なんか、キャッチ―じゃないよね(笑)


——逆に一番大変だったことは?

 大変だったのは、オープンの時はスタッフ3人で始めたけど、映写をずっとやってたのがわたしと高橋で。でも劇場で映写の仕事をやってただけで劇場の運営なんて知らなかったし。藤島さんなんかは劇場で働いたこともなかったから。その3人で動かしていこうっていうのが大変だったよね。何も分からないっていう。最初はとにかく作品をどうやって取ってくるんだろうみたいな。東京の配給会社に挨拶回りに行った時に「まあ頑張れよ」って言ってくれるところもあれば「このご時世に今から映画館やるとかアホちゃうか」って言われたり。ご祝儀代わりに作品を出してもらったり色々だけど。そこらへんは一つ一つ聞きながらクリアして覚えていったって感じだけど、最初にまずぶち当たったのは映画の精算でした。

 

 最初のオープニングでやった映画が終わった後に、ちょっと独特な精算の仕方をするんだよね。映画業界って。その精算の計算式の意味が全く分からなくて。3人で「ここで足してるのにここで引くっていうのはどういうことやろか?」とか話して。「これどういうことですか?」って電話で聞いて。「ちょっと分かりにくかったですかね、じゃあもうちょっと分かりやすくしたものをFAXします」って送ってもらって「ああ、なるほどなるほど・・・え、でもこことここの式は?」ってまた聞いて(笑)何回もとても親切に教えてくれたのがスタジオジブリの方でした。オープニングで高畑さんの『赤毛のアン』やったんですよ。ジブリの人、めっちゃ親切やった。そこでしつこく教えてもらってなんとなく理解したみたいな。


——元町映画館を始める当初の「こんな映画館にしたい!」という理想と今の元映とのギャップを教えてください

 まだわたしは、映画館を始めた時は、あんまり何もそんなことは考えてなかったんだけど。どういう映画館を目指しているかというと、とにかく同じ場所に長くある映画館を目指していて。それはスタッフが変わっても、多少ラインナップが変わってもとにかくあり続けるっていうことが目一番の標なのね。自分が割と子供のころ引っ越しが多かったりもしたから。前のともだちに会いにいったら全然街並みが変わったりするわけじゃん?同じとこにずっとあるっていうことにわたしは憧れというか、とても大事なことのような気がしていて。何十年も。たぶんあんまり思ってたような答えじゃなくて申し訳ないんだけど。 

 

 だからギャップっていうのは今のところまだないんだよね。まだ6年、7年目に入ったところだから。ただ、途中からやっていく中でこういう映画館になっていきたいなっていうのはもう1つ出来て。例えばうちのボランティアさんで趣味でイラスト描いてた子がうちの作品に合わせてイラスト展をやってそこから他のとこでもちょくちょくイラストの活動をするようになったりとか。あなたたち映画チア部が出来たりとか。色んな人が何かを実現できる場になればいいなって思った。それは途中から出来たかな。うちはうちでここにあって、っていうだけじゃなくてもうちょっと風通しを良くして、いろんな人がここを使ってやりたいことを実現できる場になるっていうのはすごい素敵だなって。だからギャップが出たってわけじゃなくやってるうちにもう1つ追加された感じ。


——いままでの人生で一番役に立ったな、仕事をする上でもそれ以外でもやっておいてよかったなってことはありますか?

 何一つ無駄なことはないと思う。わたし就職もしなくてバイトで色んなことしてたので、それが、まあここ(元町映画館)が終の棲み処になるといいんだけと。これから転職っていうのは自分では考えてないんだけど。ここで意外と役に立っているなっていうのはあって。分かりやすい所で言うと前に地域情報誌の編集部で働いてたから文章を書き慣れているとか。紹介文とかイベントレポートとかすぐ書ける。たぶんイベントレポートわたし誰よりも早いから。イベントが終わってその日のうちに1時間ぐらいでがーっと書くみたいな。そういうのは前の仕事してたからだし。前の仕事してた時に制作の仕事もやってたのね。パソコンでイラストレーター上で紙面を作る、レイアウトを作るっていう。少し前まではわたしがチラシを作ったりしてたので。


——学生の間にやっておきたかったことってなんですか?

そうですね・・・制服デートですかね。


——高校生まで戻るんですか(笑)

 しかも全然仕事に関係ないっていう。制服デートしたことがなくてですね。なんか、いいじゃないですか、制服デートって、キラキラしてて。わたし高校ぐらいからどうもおっさんばかりと付き合ってて(笑)自分が制服の時に制服の相手がいなかったんだよね。だから制服デート見るとキャッってなる。自分の記憶としてあるといいのになって。もうあなたたちも制服の時代じゃなくなってるけどね。

 

 他はなんやろな。学生のうちに意外に時間はないと思ってたけどとても時間はあったんだろうなあとは思うけどね。バイトでもなんでも自分の興味のあることに首を突っ込めるっていうのは学生の強みかもしれない。社会人になるとなかなかね。どこかに勤めながらこっちにも興味あるからこっちでもバイトしよってわけにはいかないじゃん?それが3日で辞めようが首を突っ込んだ経験は残るわけだからそれが無駄になるとは思わないし。学生だからっていうわけじゃないけど、バイトでもなんでも、仕事は一生懸命にやらないと面白くないので、確実に。時給の時間を稼ぐとか。自分の頭で考えて真剣にやらないとほんとに仕事ってダルイだけだから。だからみんなもっとちゃんと真剣にやればいいのにって思うけどね。 

 

 わたし一時スーパーのパートをしてたんだけど、それもでもちゃんとやると楽しかったんだよね。学生の時から映画とかやってたわけだからそれこそ最初はそういう普通の仕事って自分でも「いやそりゃないわ」って思ってたんだけど、おばちゃんたちと葛藤してたら楽しかったんだよね。そこで気づいたんだよね「あ、わたしは働くことが好きなだ」って。こういう仕事は好きでこういう仕事は嫌いとかじゃなくて、ただ働くことが好きなんだなって。スーパーのパートで、商品を補充して、足りなくなったら発注して、っていうただそれだけなんだけど。自分で考えてやるっていうか、よりよくするためにどうするかって考えるのと考えないのでは全然仕事の面白さが違う。まあ、発注単位を間違えてワインが大量に届いて怒られたりとかしたけど(笑)そんな時には棚の突き出しの部分を使ってワインフェアみたいにして売りさばく、みたいなことも教わったし。これは面白いなと。


 仕事はなんでも面白いんだなってその時気づいたよね。あとパートのおばちゃんたちの仕事の出来っぷり。社員の男性よりもおばちゃんたちの方がよっぽど出来た。世の中けっこうパートのおばちゃんに支えられてるんちゃうかなって思うよね。すごいよね。もちろんどこに行ってもそうかって言われると分からないけど。やっぱ男性は社会的な生き物だから、会社という組織に入ったら会社のひとになっちゃうのかもしれないね。おばちゃんの方がすごく現場を見てたし状況を把握してたし、柔軟な対応が出来てた。あと客あしらいがうまいみたいな(笑)おばちゃんはすごいと思いました。


——お客さんに言われて嬉しかったことはなんですか?


 それはやっぱり今観た映画が面白かったって言われるのが嬉しいな。言わなくても何となく劇場を出て来た時の顔とかで感じたりもするんだけど。ここでいい時間を過ごしてもらうっていうのが嬉しいな。あとは、最初集めたお金でここを作ったけど、作るのにほとんどお金を作っちゃって全然お金が無くて。最初カンパボックスとか置いてたんだよね。それに入れてくれる人もけっこういて。で、まあ頼りないわけじゃないですか。「すいません」みたいなほんと。最初そんな感じだったから。すごいお客さんに助けられてる気はほんとにするので。「大丈夫かここ?」って思ってたお客さんがたくさんいたと思うんだよね。周年とかの度に「よくここまでもったなー」って自分の息子や娘みたいに声かけてくれる人がいるのよね。そういうのはすごく嬉しい。「ほんますぐつぶれると思っとったけどな!」みたいな感じで。そういう声かけてくれる人はほんとありあたいし、長生きしてねって思う。


——最後の質問になるんですけど、学生に向けて仕事選びのアドバイスって何かありますか?


 仕事を選ぶアドバイスねえ・・・。わたしは映画が好きになって、映画以外のことやんないよ!って感じなんだけど、わたしの大学時代の友達でずっとバレーボールをやってた子がいて、自分がこうなりたいとか、こういう業界に行きたいっていうのもなかった子がいて。まあ普通に就職したんだけど。わたしはずっと映画がやる!って言ってたわけだけど、その子が「わたしは未来みたいにやりたいことがなかったからどの仕事やっても楽しいねん」って言ってて。それがけっこう衝撃で「すげえなこいつ」って。もともとすごい頑張り屋さんなんだけど、やりたいことがない分どれをやっても楽しいって言ってて。それすごいなって思って。まあわたしは映画しかほとんどやってないっちゃやってないんだけど。

 でもスーパーのパートの時にああなるほどなって思った部分もあって。仕事を楽しくするのもつまらなくするのも結局自分次第だなって思って。それを言葉として伝えても分かりにくいんだよね。体感しないと分かんないことだと自分でも思ったんだけど。そういうことを一番若い人たちに伝えないといけないと思うんだけど。ありきたりの言葉でしか伝えられなくてごめんなさい。働くっていうことと、勉強するっていうことは頭の使い方も体の使い方も自分自身としての向かい方も全然違うんだよね。


 だからわたしも彼女も勉強するより働くことに向いてたんだろうなという気はすると思う。もちろん働くのがしんどいっていう人もいると思うけどね。研究者肌というか。でも、最初の方でも言ったけど自分を幸せにするのは自分だから。なんか変な宗教みたいな話だけど。仕事行くのだるいなとか、課長腹立つわとか。そういうことは日々あるだろうけれども。結局自分を幸せにするのも自分だし、仕事を面白くするのも自分だし。

 

 例えば、先輩だから上司だからであんまり自分の意見を通せないとかは思わないでほしい。いかん会社だと思う、そういうのはね。言わせない上も悪いけど、上の人だから言えないって思ってる下の人もやっぱり悪いとは思う。リスクを考えるとあんまり事を荒立てたくない、っていうのが嫌なんで。それで得るものって何かっていうと組織の中で使いやすい人間が育つだけであって。そうなるとなかなか仕事も面白くならないと思うんだよね。まあ、たてついてばっかりで隅に追いやられて辛い思いをすることもあるかもしれないけど。でも、言いたいことを言うっていうのは自分の考えが持ってないと出来ないですから。言いたいことを言える人になってほしい。日々いろいろ考えんといかんですよ。だんだん説教みたいになってきたけど(笑)


——いえいえ、そんなことないですよ!ありがとうございました!


2回にわたる林さんのインタビュー、いかがでしたでしょうか?

筆者は林さんの「自分のやりたいことをやり続ける」という意志が人生観を一切ブレさせない理由の一つであると感じ、格好良く見えました!強い意志を持つことが、夢への道につながるということを体現されているようでした。

次回もお楽しみに!

(まゆ)


■PROFILE

元町映画館 支配人 林 未来さん

大学卒業後、大阪の映画館で映写技師として働く。その後地域情報誌の編集部での勤務を経て、設立初期から元町映画館に関わる。2013年に2代目支配人に就任。

映画チア部

神戸・元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための映画宣伝隊。