『食べられる男』近藤啓介監督インタビュー
宇宙人に食材として人間を差し出すーそんな契約の結ばれた2035年の地球を舞台に、被食者に選ばれた主人公の1週間を描く。ヨーロッパ企画の本多力を主演に迎えたことでも話題となっている本作。P星人とは?ラストシーンは?読めばきっと映画が気になり始める。近藤啓介監督インタビュー!
■星新一のショートショート
近藤啓介監督(以下、近藤) ぼく今日誕生日(取材日は2/17)なんですよ
映画チア部・こえた ええ!そうなんですか!おめでとうございます!すいません何も持って来てなくて…
近藤 持って来てたらビックリしますよ(笑)
一同(『私は兵器』三間監督、『見栄を張る』藤村監督が同席) (笑)
こえた あ、それもそうですよね(笑)とにかくおめでとうございます!それでは早速なんですが、宇宙人に食べられる男ということで、最初観始めた時星新一のショートショートみたいな話かなと思って
近藤 あ、それはありがたいですね。意識してますね
こえた あ、意識されてるんですかやっぱり?
近藤 意識っていうか、好きですねめっちゃ。星新一の短編はすごく好きで、自分でも持ってます
こえた 最初から星新一っぽく…?
近藤 いや、意識して作りたいということはなかったです。単純に好きで読んでて。多分そういうのが好きなんだろうなという感じです
こえた なるほど。無意識にそういう感じになっていったんですね。身体に星新一のリズムが染みついているというか
■「食べる」行為
こえた 本編を観て、被食者認定証をもらう前の村田(本作の主人公)より、もらってからの村田の方が生き生きしてるのが面白いなと思って。あれはやっぱりきちんと役割を与えられたからですか?
近藤 そうですね、そういうのも考えてます。
こえた 企画書にも書いてたんですけど、(赤い封筒に入っている被食者認定証を見て)赤紙だ!って思って。村田が被食者になったのを知って周りが万歳するのも戦時中の感じだなと。でも、観てて社会風刺の部分はあくまでちょっとだけ、って感じで「食べる」っていうことがメインなのかなと
近藤 そうですね。社会を皮肉ってやろうみたいな思いはあんまりなくて
こえた 「食べる」については本当に印象的な食事のシーンがたくさんありましたね。特にラストの村田が、自分が宇宙人に食べられる前に最後に自分が食事をするシーンとか。全編を通じて、近藤監督自身が「食べる」ということに対して何か強い想いがあるのかなと感じたのですが
近藤 いや、僕自身が食べることに対して強い想いがあるわけじゃなくて。宇宙人に食べられる話を作ろうっていうのが最初で、そこから必然的に食べることの重要性について考えて。食べる姿、食べてる主人公の様子を捉えようとはしました
こえた 特に、村田が夜中に路上で廃棄処分されている食パンの耳を食べながら「食えよー!」って夜空に叫ぶシーンがとても印象的だったんですけど、それはもう撮っていくうちに、どんどん思いついたんですか?
近藤 そうですね、かなり悲しいというか、胸に突き刺さるシーンだと思うんですけど。始まりを言えば、僕は面白いなと思ったというか。宇宙人に食べられる男が食パン貪り食うっていうのが(笑) でもそれをそうは思われないように作りました
こえた よく考えたら面白いけど、悲しいというか
近藤 そういうことです
■主人公・村田を「食べる」P星人
こえた そんな村田を食べるP星人なんですけど、僕らは牛とか豚とか食べていて、ストレスを貯めさせないように育てる、っていう話を聞くじゃないですか。それに対してP星人は、サモグロビンっていう、負の感情が大きいとたくさん分泌される物質の多い肉が好きだと。不健全な状態の肉を美味として食べるP星人って一体どういう存在なんですか?
近藤 P星人が美味しいと思う物が漠然としていた方がいいなと思って。太っている人がおいしいとか、かわいい女の子が美味しいっていうよりもっと漠然としたものが良くて。そうなった時に悲しみの深い人が美味しい、ってなるとドラマが生まれやすいなと。幸せな人が食べられるのでも、それはそれでドラマは生み出せると思うんですけど、それをやりだすと世界中から人間を選ばないといけなくなると思って
こえた ラストシーンは本当に評価が分かれると思います
近藤 そうですね
こえた あれは、かなり勇気がいると思うんですけど
近藤 いや、あれが撮りたかったんで。あれをやらないことには、撮る意味がなかったですね
こえた 最初からあのシーンがゴールだったということですか?
近藤 そうですね。そのシーンのために、その前の約90分のシーンを面白くしないといけないという
こえた なるほど。ラストシーンは、これまでのシリアスで、でもちょっとどこか可笑しいような感じのする人間ドラマが描かれていると思うんですが、最後の最後で全然それまでの雰囲気と一変しますよね
近藤 そこに色々とテーマを込めたつもりです。それは本当に人それぞれだと思います
こえた だから監督のチャレンジなのかなあと思いました
近藤 そうですね、チャレンジですね。けど、まあ、ラストシーン無くても面白い映画は面白いんでね!
『食べられる男』公式HPは コチラ
Profile
□近藤啓介
1993年大阪府生まれ。2011年大阪芸術大学芸術学部映像学科入学。共同監督した『小村は何故、真顔で涙を流したのか?』が第17回京都国際学生映画祭長編部門にてグランプリを受賞。今作が3本目の長編映画となる。
(文字起こし こえた)(記事編集・リード文 まな)
0コメント