『見栄を張る』藤村明世監督インタビュー
「泣き屋」という現代の日本には存在しない職業を登場させ、“見栄を張る”という誰もが一度はしたことのある行為を描く本作。和歌山県で撮影された美しい映像も見どころだ。世界初上映となる大阪アジアン映画祭では、すでにチケットも完売の注目作!藤村明世監督は何を語るのか。
■「泣き屋」という職業
映画チア部・こえた(以下、こえた) 本作は藤村監督にとって「自分の25年間の人生を賭けて挑戦したい映画」だと聞いているのですが、本作を観て主人公の絵梨子に藤村監督自身がかなり自己投影しているのかな?と感じました
藤村明世監督(以下、藤村) そうですね。私も結構絵梨子と一緒で、人によく大げさに言ってしまうことがあって。体裁を保つために職業のこととかを。そこはすごく自分を投影していますね
こえた じゃあ、最初のオーディションのシーンで、主人公の絵梨子が知り合いの芸能人に会った時に見栄を張ってしまのも、実体験に近い?
藤村 あんな大げさには言わないですけどね(笑) あれは分かりやすく言ってるだけで。でもああいう風に見栄を張ってしまうことはありますね
こえた それで、映画の中で「泣き屋」という仕事がどういうものか描かれるわけですが、日本ではもう職業としての泣き屋は存在しないじゃないですか。海外ではあるみたいですが。映画の中で描かれる泣き屋というのは、監督の創作なんでしょうか?
藤村 そうですね。海外の泣き屋はもっと大げさというか、立ち位置としては僧侶さんと同じぐらいで。魂を送るためにお経を読むような感じで泣く。歌ったりもするんですけど
こえた 映画の途中で、お葬式でとても大げさに泣く女優三人が出てきますが、あれぐらいが海外では普通なんですか?
藤村 そうなんです。でも、そっち方面ではない方を目指したくて。だから泣き屋の風景というか、それに関しては創作ですね。でも、(主人公の)絵梨子の泣き屋の先輩であるハナエさんが「魂を送るために泣く」って言ってたのは本当に60年前に日本で泣き屋があった時は本当にそういう役目があって。魂を見送るための、サクラとかではなく、お産婆さんとかがやってたような仕事で、崇められるような存在だったんです。だから事実と創作の両方がありますね。セリフでは60年前に日本であった泣き屋をベースにしてますし。泣き屋の仕事風景とかは架空で
こえた ちなみに藤村監督の中で泣き屋っていうのはおいしいお仕事なんですか?給料的に
藤村 私が作った中では泣き屋は高給取りっていう設定ではあります
こえた じゃあ、もし現代に復活したら人気の仕事になるかもしれないですね(笑)
■「泣く」表現の難しさ
こえた さっきも話に出た大げさに泣く女優3人、あれはあれで女優としては正しい泣き方だ、って劇中で(主人公の先輩の)ハナエさんも言ってて。その泣き方と、泣き屋として死者を送るために涙を流すということの違いを表現することが難しかったのではないかと感じました。ニュアンスの違いを役者さんに伝えるのがかなり難しかったのでは?
藤村 難しかったですね
こえた 監督自身の中でビジョンはあったんですか?「泣き屋はこう泣くべきだ」という
藤村 それが難しくて。でも、最後に絵梨子が泣いてるのも「泣き屋としてはまだまだ全然だめだ」っていうような泣き方なので。結局、受ける側だなって思って。この人がどうなったか、っていうよりも周りがどういう反応をするかだなっていう風に思いました。そこをきちんと演出できたのかどうか、というのは一番の反省点ではありますかね。涙の違いは難しかったですね
こえた 結構、撮り直しもされたんですか?
藤村 そうですね。何回かしましたね
こえた 具体的に役者さんにはどういう風に演技指導されたんですか?
藤村 あのシーンでは、映画の中で絵梨子が一番成長するシーンなんですけど、でもまだ(急死するまで泣き屋をしていた)お姉ちゃんのようには泣けてない、っていうのもちゃんと説明して。もうちょっと表情柔らかく、とかそういう指示はしましたね
■“見栄を張る”とは?
こえた 最後の質問になるのですが、結局藤村監督にとって「見栄を張る」とはどういう行為ですか?
藤村 絶対に皆さんやることだなとは思って。それは別にいいことでも悪いことでもないと思うんですけど。それをやりすぎることで、本当は持っていなきゃいけない大事な部分を見失ってたりしたら駄目だなと思って。普通に全然悪いことではないと思うんですけど、素直に生きなきゃいけない場面もあると思います
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Profile
□藤村明世
1990年東京都生まれ。明治学院大学文学部芸術学科で映画学を専攻。
大学時代に制作した『彼は月へ行った』(14)が第36回ぴあフィルムフェスティバルや仙台短篇映画祭2014、第6回下北沢映画祭などで入選。今作は初の長編映画。
(文字起こし こえた)(記事編集・リード文 まな)
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