私たちは無力なんですか―『人魚に会える日。』仲村颯悟監督インタビュー
(左から、関西宣伝担当竹内詩乃さん、仲村颯悟監督、映画チア部まな。シネマート心斎橋にて)
1週間後に関西での初公開を控えた『人魚に会える日。』監督からスタッフまでがすべて学生が担った本作は、沖縄の若者のリアルな感覚で私たちの知らない“沖縄”を描き出す。13歳で長編デビューを飾り、本作が長編2作目となる仲村颯悟監督にインタビュー!映像制作のきっかけとは?本作の描く“沖縄”とは?
■14歳の頃のオリジナル脚本
映画チア部・まな(以下、まな) 脚本自体は数年前から構想があったということですが。
仲村颯悟監督(以下、監督) 構想自体は14歳の時にあって、ただ、出来上がった作品とは全く別の話でした。タイトルだけ一緒で、中身に関しては全然浅いというか…中学生の時に書いたものなので。14歳の時に書いて、完成を迎えることなく封印されていたものを今回。
まな どういったきっかけで、14歳の頃の脚本を今回再び手に取ることになったのですか?
監督 高校まで沖縄だったんですけど、関東の大学に進学して。その時に沖縄で見ていた沖縄というのと、関東の人が見ている沖縄っていうのにすごく温度差というか…自分たちが見てきた沖縄が、県外の人には伝わってないことに驚いて、そういった沖縄の人たちの想いを伝える作品を撮ろうと思った時に『人魚に会える日。』というシナリオがあったことを思い出して。そのシナリオを見つけ出して、そこに肉づけをしていって、今の作品になりました。
まな 『人魚に会える日。』は基地について触れていますが、14歳のころに書いた元々の脚本にも基地は登場していたんですか?
監督 いや、人魚伝説のモデルになったジュゴンという生き物が沖縄にいるんですけど、その生き物に焦点を当てたシナリオで。基地の話は、今回肉付けしていく中で入れていきました。
まな 監督は14歳の頃に脚本を書くなど、一般的に映画制作をしないような年齢から映画を作っていますが、映画を作るようになったきっかけは何かあるんですか。
監督 家にホームビデオカメラが―運動会の時に使う普通のビデオカメラがあって、それを遊び半分というか、持ち出して映像を撮っていたら、次第に物語を作ってみようとか、演技してみよう、という風になって。気づいたら映画を撮っていた感じです。だから、特に憧れている監督がいるだとか、好きな映画があったわけでは全く(ない)。
■「声にならない声もちゃんと伝えないと」-内と外から見る“沖縄”
まな 先ほど話に出ましたが、「内側から見る沖縄」と「外側から見る沖縄」の違いとは?
監督 例えば基地の話だと、報道とかで見る基地問題って“賛成派”と“反対派”がいて争っていて、沖縄の中でも真っ二つに分かれて…みたいによくテレビで報道されていたんですけど、それ以外の声というか、声にならない声のような。賛成派の意見も分かるし、反対派の意見も分かるし、でもどちらも分からない部分もあるというなかで、葛藤している。沖縄の僕らの世代って、大体そうなんですけど。そういう状況が報道からは見えなくて。そういった部分もちゃんと伝えないといけないんじゃないか、ということを思っています。
まな 沖縄に住んでいる人にとっては、かなり生活に密接した問題ですよね。
監督 そうですね。政治的な問題というよりも、僕らにとっては日常の一部の話でしかないので、基地の話も。生まれた時からずっと傍にあるもので、それがなくなったらどうなるかも分かんない状況で。
まな 生まれたときから基地があって、ない状態を知らない世代ですもんね。
監督 だからこその想いというか、おじいちゃんおばあちゃんは基地のない沖縄を見たことがあるから、基地反対って言うかもしれないけれど、僕らにとっては日常の一部で、米兵さんと遊んだりということもあったので。でも、危ないものだという意識もちゃんとあって。(そのなかで)葛藤している様子が、なかなかマスコミやメディアを通じちゃうと取り上げられない。そういう想いをちゃんと伝えようと思って、今回この映画を制作しました。
■「僕らの想いがちゃんと伝わった」-各地での反響
まな 沖縄の方がこの映画を観たときの反響は、どうでしたか?批判的な声もあったかと思うのですが。
監督 ありましたね。でも、もっと大変なことになると思っていたので。意外とみんな腑に落ちているというか、「そうだよね」っていう共感の声にほうが大きくて。これまで、なかなかそういった映画がなかったので。ちゃんと若い世代にも観てもらって、そこで共感の声があって、というのは「やっぱりみんな同じことを考えていたんだな」と感じました。
まな 監督としては、どんな人に観てほしい映画ですか?
監督 世代を問わず。ただやっぱり県外の若者にとって、同じ世代の沖縄の子がどんなことを考えているのか、ということはすごく刺激になるというか、みてほしいですね。
まな 東京の方でも反響は大きかったように感じました。SNSでも、「2回観ました!」という声を目にするので。
監督 予想外に、というか。
まな あまり大きな反響は予想していなかったんですか?
監督 そうですね。東京の人の反応は楽しみではあったんですけど、最初に沖縄で公開して、初めて沖縄以外の場所での上映だったので、どんな声が出てくるのか、というどきどきはすごくありました。「知らない沖縄を知れた」と衝撃を受ける人がいたり、涙を流して劇場から出てくる人もすごく多くて、僕らの想いがちゃんと伝わったんだな、と思いましたね。今回の作品はフィクションというか、ファンタジーの要素がすごく入ってはいるんですけど、ただリアルな沖縄っていうのも、生の声もちゃんと含まれているので。
■「まずは多くの人に観てもらいたい、届いてほしい想い」ーシアターと観客
まな ファンタジーを交えて描こうと思ったのは、14歳の頃に書いた元々の脚本にそういった要素が入っていたからですか?
監督 そうですね。最初からファンタジーで描こうというのはありました。基地の問題っていうと、昨年も沖縄でドキュメンタリーで撮られているんですけど、すごく堅苦しい印象をドキュメンタリー映画だと持ってしまう。そういったものではなくて、映画としても楽しめるような、エンターテイメントとしてもちゃんと観られるような作品にはしたいと思っていました。
まな ドキュメンタリーっていうと、それだけで観るのをやめる人もいますよね。重い、というか。
監督 本当にその問題に関心のある人しか来ないというか、お客さんを選んでしまうというのがあるので。まずは多くの人に観てもらいたい、届いてほしい想いだったので、そこはお客さんを選ばずに、巻き込めるような作品にしたいと思っていました。ドキュメンタリーじゃない手段を選んだのはそこですかね。
まな 大阪でもたくさんの人に観てもらいたいですね。けれど、若者のシアター離れが著しいのが現状です。特に、これから『人魚に会える日。』の上映のあるシネマート心斎橋さんなどの小さなシアターは、そもそも「知らない」という人も多いんですね。シネコンとは違ってCMで見かけることもないので、そこでやっている作品も知らない。何も知らない、だから行かない。
監督 そうですよね。どこのシアターも言っていますね、若者が来ないという。逆に、今回の作品は若者が撮っているので、それを共通点として来てほしいですね。
■『人魚に会える日。』のこれから
まな 監督としてはやはり全国でもっと上映したい?
監督 そうですね、伝えたい思いが一番入っているので。沖縄だけで終わらせず全国で、いずれ海外にも持っていかないとな、と。この作品もう翻訳は終わっていて。
まな 海外や映画祭向きに。
監督 準備万端なので、あとは、これをどこまで広められるか考えていきたいです。
仲村監督の想いが詰まった一本。全国、そして海外まで広がってほしい!
『人魚に会える日。』は3/26(土)よりシネマート心斎橋にてレイトショーで1週間の上映予定。前売り券も発売中!劇場へ急げ!(上映スケジュール・前売り券販売情報はコチラ)
『人魚に会える日。』公式サイトはコチラ
Profile
□仲村颯悟(なかむらりゅうご)
1996年沖縄県生まれ。⼩学⽣の頃から映像制作を行う。長編デビュー作は13歳の時に監督した『やぎの冒険』(2010)。 現在、慶應義塾⼤学に在学中。本作『⼈魚に会える日。』は、すでに14歳の頃に書き上げていたオリジナル脚本を元にした、5年ぶりの⻑編2作目となる。
■映画チア部
2015年3月神戸・元町映画館を拠点に関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された学生による映画宣伝隊。さまざまな活動を通して、ミニシアターの魅力を発信している。
(文字おこし・編集 まな)
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